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ぶっつけ

 大店のお坊ちゃんがおられまして、この人がずいぶん真面目な人でした。朝早くから店の下働きの者に混じって雑用をしたり、夜は夜で店の者が寝静まってからも、一人仕事をこなすといった具合で、一般に2代目と言うと馬鹿息子が多い中、なかなかたいした人物でした。

 ところが、この人がオクテな人でして、女性の手を握るのはもちろん、面と向かって話すことも恥ずかしがるような人でした。

 この坊ちゃんが、2人の悪友に遊郭へと連れて行かれたからさぁ大変。帰る帰るの大騒ぎ。当時の吉原には大門というのがございまして、ここで吉原に入る人の記録をつけていたのだそうで、不自然なことをして店から出てくると、この大門のところで留め置かれたそうです。ですから、先ほど3人で入ったのに、1人だけ出てきたとなると、なにかあったなと大門のところで留め置かれるのがオチだから、まぁ、今夜一晩だけ付き合いなさい、と諭されて、泣く泣く泊まることになります。

 翌朝、友人2人が若旦那の部屋に行くと、若旦那が布団の中からいっこうに出てきません。痺れを切らした友人2人が、置いていくぞと脅したら、

「帰れるものならお帰りなさい、大門のところで留め置かれるから」

 さて、このお坊ちゃんに昨晩どんなことがあったのでしょう。


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