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ぶっつけ

 僕の子供の頃(いやまぁ、今でも子供みたいな事してますが)、いろいろとお稽古ごととが流行しました。習字、算盤、ピアノ、野球などなど。どうも、日本人は、根っからのお稽古ごと好きだったようで……

「おい、留さん、すまねぇが、ちょっとつき合ってくれ。実はねぇ、ひとつ稽古してみたいものがあるんだが、一緒に行ってくれないか」
「へぇ? 稽古? お前さんが! なんの稽古なんだい」
「この先、10軒ほど行くと左側にアクビの師匠ができたんだ。あそこへ行って、アクビの稽古をしようと思うんだが、一緒に来てくれよぉ」
「あきれたねぇ。だから、お前さんは馬鹿だと言われるんだよ。どこの誰が、アクビを稽古する? ふざけちゃいけない。あたしゃ、ごめんこうむるよ」
「そんなこと言わずにさぁ。別に一緒に稽古してくれって言うんじゃないんだ。ただ、最初だろぅ。1人だと決まりが悪くて……。ついてきてくれるだけでいいんだ。ねぇ、頼むよ」
「ついてくだけでいいの。あ、そう。じゃあ、一緒に行くよ。でも、どんなことがあっても、稽古はしないよ」

 てなわけで、アクビの先生の所に行ったわけですが、所詮、教わるものが「あくび」です。留さんは、退屈で仕方がありません。オチは、その留さんがアクビしたのを見て師匠が、

「へぇ、この方はご器用だ! 見てただけで覚えた」


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