瓦投げという遊びがございます。
どういう遊びかというと、瓦を投げて、的を落とすという他愛ない遊びなのですが、昔のお金持ちの方々は、瓦の代わりに小判を投げていたのだそうです。
「ね、このがけの下に瓦投げに使った小判が、たくさんあるんだろ。どうにか拾えないものかなぁ」
「わけないよ。俺が拾ってくる」
「拾ってくるって、50メートル以上はあるんだぜ。無理だって」
「大丈夫、任せて」
と言って、傘を広げて谷底へ飛び降ります。
「おーい、大丈夫か、怪我はないか」
「大丈夫。おっ、すごいすごい。あちこちに小判が落ちてる」
「小判はいいけど、どうやって上がってくるつもりなんだい」
「しまった、それを考えてなかった」
そそっかしい話でございますが、ともあれ、当時の愛宕山は、猪や鹿、オオカミなんかもたくさんいたのだそうで、のんびりと考えていられません。
男は、何を思ったか、着ていたものをくるくるっと脱ぎ、羽織、着物、長襦袢、帯、褌を結んでロープにし、その先に石を結わえて、ひゅーっと投げ上げます。うまい具合に、嵯峨竹に巻き付いた。ぐいぐいとロープを引っ張り、竹が十分しなったところで、えいっとばかりに飛び上がると、ひらりとてっぺんに戻ってきます。
「へぇ、うまいもんだねぇ。ところで、金は?」
「あ、忘れてきた」