昔は、両国橋をはさみまして、西側の日本橋は寄席がありましたし、大道商人もたくさん出ておりました。東側はというと、本所の回向院を中心にずらっと見世物小屋が立ち並んでおりまして、こちらはこちらでたいそう賑わっておりました。
この見世物小屋というのは、大小様々に趣向を凝らして、客を集めていたのですが、中には「もぎどりの小屋」と言いまして、木戸銭さえ取ってしまえば、あとはもういっさい関係ないなんて、薄情な小屋もありまして、目が三つで、歯が二本の生き物がいると聞いて中に入ってみると、下駄が転がっている。確かに、目が三つで、歯は二本ですけれども。
また、鬼娘の小屋というのもございまして、こちらは小屋の中に入ると、鶏の裂いたのやら、ヘビのむしったの、カエルやらが散らばっている中に、女性が1人、すごい形相をして座っている。髪は何年も洗ってないようなぼさぼさで、そこからにゅっと角が生えている。これが赤ん坊を生で食べるという趣向になっているのですが、まぁ、実際には食べる訳ではありませんで、食べようという寸前で止めの手が入ることになっています。それでも、随分薄気味悪くて、見世物小屋の中では人気の小屋の1つでした。
あと、蛇女というのも、人気がありまして、どんなものかと期待して入ってみると、大きな青大将と年増の女がいるだけ。だまされたと怒って、呼び込みの男に文句を言いに行くと、男は黙って看板を指す。よーく看板をみると、蛇女の間に小さく「と」の字が書いてあります。「蛇と女」だったわけで、これまたしてやられたなんてことになります。
男が、代官所に引き立てられてきます。罪状は、かどわかしの罪。取り調べが始まり、男が江戸から来たこと、仕事は香具師をしていることなど次第に素性が明らかになってきます。そこで顔を上げた男の面をみて、取り調べに当たっていた役人達は驚愕することになります。
「この男には、目が2つある!」
「取り調べは後回しだ、早速、見世物に出せ」
一眼国でございました。