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地口落

 そこに山があるから登ったなんてことを言いますが、昔は、山に登ると言えば、信心からと相場が決まっていました。もっとも、江戸も後期になると、物見遊山の口実にしていたという人もおり、行く先々で、どんちゃん騒ぎなんてこともザラでございました。

 さて、長屋の男連中が、大山に登ることになりました。行きはどうと言うこともなかったのですが、帰りにホッとしたのか、酒が入ってしまいます。こうなると、いけません。先に酔いつぶれた熊さんの髪を、悪ふざけで剃ってしまいます。

 朝起きて、自分が坊主になっていることに驚いた熊さんは、してやられたと悔しがります。しかし、同じことを仕返ししても、芸がありません。一計を案じた熊さんは、一足先に江戸に戻り、おかみさん連中を集めます。そして言うには、道中、川を渡ろうとしたところ、天候が急に崩れて、船が転覆し、岸にたどり着けたのは自分だけ。ついては、友人の供養にと、頭をまるめた。これを聞いて、おかみさん達は、自分たちも夫の供養にと、髪を剃って尼になります。

 帰ってきた長屋の連中は、自分たちの妻が全員、尼になっていることにびっくりします。

 それを見て、熊さんは、大笑いしながら、

「みんな毛が(怪我)なくて良かった」


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