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途端落

 僕のような気の短い人間にとって、釣りが趣味というのは、信じられないことなのですが、それはともかく、「馬のす」です。「馬のす」というのは、馬のしっぽの毛のことです。

 さて、釣り好きの徳さんが、ある日いつものように釣りに出かけようとしたところ、あいにく釣り糸がこんがらがってしまって、使い物になりません。ちょうど、そこへ白馬が通りかかったので、尻尾の毛を失敬して、釣り糸にします。

 するとどうでしょう、その日は大漁。大喜びの徳さんは、友人に自慢します。

 ところが、友人は浮かない顔をして、徳さんの話を聞いています。

「なんか、おかしなことあるかい」
「本当に、馬の尻尾の毛、抜いたの?」
「あぁ、それがどうした」
「白馬だろ?」
「白馬だよ」
「えらいことしたなぁ」
「抜いちゃいけないかい」
「いけないもなにも……。知らぬが仏とはこのことだよ」
「おいおい、脅かすなよ。馬の尻尾を抜くと、どうなるんだい。教えてくれよ」

 というわけで、徳さんは、馬の尻尾を抜くとどうなるか聞き出そうと、酒を振る舞います。友人は、出された酒をうまそうに飲み、枝豆を食べ、また酒を飲み……といつまでたっても話し出しません。

 しびれを切らした徳さんは、

「おい、いい加減に教えてくれよ。馬の尻尾を抜くとどうなるんだい」
「馬の尻尾を抜くとね」
「うん」
「馬が痛がるんだよ」


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