男なら誰しも一度はあこがれるのが、「ヒモ」でございます。あれは、いいものですね。まず食事の心配をしなくてもいい。それでもって、働かなくても暮らしていける。なにより、情の深い女性がそばにいてくれるわけですから、男としてこれ以上恵まれたことがあるでしょうか。
ともあれ。
論語に、
「厩焚けたり、子朝より退き、人は傷つけざるやとのみ言いて、問いたまわず」という話があります。これは、厩が火事になり、主人が大事にしていた名馬が焼け死んだにもかかわらず、仕事から帰ってきた主人は、家中の者に怪我はなかったかとだけ聞き、馬が死んだことについて誰もとがめなかったという話でして、上に立つ者はこうではなくてはいけないという話です。
他方で、茶碗を運んでいた妻が目眩を起こして倒れたところ、まず茶碗が割れなかったかと聞いた夫は、離縁されても仕方ない。
こんな話を聞いた、髪結いの女性が、年下の夫が、はたして自分を愛してくれているのだろうかと一計を案じて、夫の目の前で茶碗を割って見せます。すると夫は、怪我がなかったかと血相を変えて飛んできます。喜んだ女性が、
「お前さんは、普段、つっけんどんだけど、やっぱり私のことを愛してくれていたんだねぇ」
「当たり前じゃないか。お前が怪我でもしてみろ、明日から遊んで酒を飲むことができない」