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間抜落

 仕事というと、これがなかなかやさしい仕事というのはございません。芸人の中でも一番難しいのが、幇間、つまり「たいこもち」なのだそうで……。

「ちょっと、大将、大将ってば。お出かけですか。鰻を食べに。ようございますなぁ。あちきも、ご一緒させてはもらえないでしょうか? いいですか。さすがは大将、太っ腹でございますな。男はこうでなくちゃいけないですよ。あ、ここですね。さすが、大将。通ですなぁ。こういう見た目がみすぼらしいところの方が、おいしいんですよね。おぅ、出てきましたよ。早いね。温かいうちに頂戴いたしましょう。ともあれ、お酌をしましょ、お酌。あ、大将、どちらへ? 厠ですか。家来もお供を……」

 なんて、騒々しいことを言っていると、大体において嫌がられるもので、男は幇間持ちを残してトイレに行きます。幇間持ちは鬼の居ぬ間の何とやらで、鰻を食べ、お酒を飲み、一人で楽しんでいたのですが、男がいっこうに帰ってこないので、心配になって女中に尋ねると、男はとっくに帰ったと言います。しかも、勘定もまだ。悪いことは重なるもので、男はみやげに3人分の鰻を持って帰っておりまして、その分も払うことになってしまいます。さらに追い打ちをかけるように、

「俺の履き物は、どこに行った。あの5円の下駄」
「あれなら、お連れさんがお履きになりました」

 世の中、上には上がいるという噺でございました。


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