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間抜落

「与太郎、こっちへ来な。おまえは今年で何歳になる」
「20だ」
「だから、おまえは馬鹿だといわれるんだよ。世の中に20なんて歳があるか。そういう場合は“はたち”と言うんだよ。まぁ、いいや。親戚のおじさんが家を立て直したから、お祝いに行っといで。くれぐれもそそうのないように、と言ってもおまえのことだから……。いいかい、今から教えてやるから、余計なことを言うんじゃないよ。まず、家に着いたら、挨拶してから中に入る。戸はちゃんと閉めるんだよ。中に入ったら、周囲を見回して『結構なご普請ですなぁ。家は総体ひのき造り、天井は薩摩の鶉木理、左右の壁は砂摺り、畳は備後表の五分縁。』これだけのことを言えば、いいんだ」
「そんなにたくさん覚えられないよ」
「しかたないやつだなぁ。紙に書いてやるよ。それから、台所に通されたら、柱に大きな節穴がある。おじさんは、これを気にしてるようだから、『そんなに気にすることないですよ。ここに秋葉様のお札を貼っておいたら、節穴も隠れますし、火の用心にもなります』と、こう言うんだ。いいな」

 といった具合で、与太郎は、おじさんの家に行き、無事に家を誉めるのですが、すっかり気をよくしたおじさんは、飼ってる牛を見ていけといいます。さて、どうやって誉めようかと思案している与太郎の前で、牛はのんきにポタポタと糞をたれます。それをみて、

「あの穴に、秋葉様のお札を貼って……」


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