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地口落

 物を売るというのは、なかなか難しいものでして、嘘をつくのはいけないけれど、だからといって正直すぎるのも困りものでして、

「このタンス、なかなかいいじゃない」
「えぇ、いいタンスですとも。なにしろ、うちに6年もあるんですから」
「おいおい、6年も買い手がなかったってことじゃないか。まぁ、いいや。ちょっと引出し開けてみせてくれないか」
「そりゃ、できません」
「どうして出来ないんだい?」
「それができるぐらいなら、とっくの昔に売れてます」

 これじゃあ、ちょっと話になりません。

「また、あんたは、そんなくだらないものを仕入れてきて。どうすんだい、この太鼓」
「お前は見る目がないねぇ。これだけ古いんだ。きっとなにかのいわくがあって、高く売れるんだって」
「そんなこといって、あんたが古道具を高く売ったためしないじゃないか。だいたい、太鼓というのは、キワモノと言って、縁日とか、そういう時に勢いで売っちゃうもんだよ。こんな季節外れでどうすんだい。だから、あんたは馬鹿だと言われるんだ。どうせ、かつがれたんだよ」
「まったく、やな女だねぇ。亭主をなんだと思ってんだい。俺だって、儲ける時は、ちゃーんと儲けますよ。それを馬鹿だ、とんまだとひどいこと言いやがって。いいよ、そんなに言うなら、この太鼓の売り上げ、みーんな俺の小遣いにしちまうから」

 と言う訳で、この太鼓をどうやって売るか、いくらで売るかと言うのが、このお噺の中心となります。

 落ちは、おもわぬ値段で売れたことに気をよくした男が、
「それじゃあ、次は半鐘でも売ろうか」
「半鐘はいけない。おじゃんになる」


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