大学時代の教授に、やたらと気前のいい方がおられました。彼は、学生を連れて飲み屋に行くと、入ったところで、おかみさんに財布を渡す。今日はこれだけしか払えないよという意思表示でございます。もちろん財布の中にたくさん入っていればいいのでしょうけど、そう毎回たくさん入っているわけではありません。時には、「先生、これだけですか」と、おもわずおかみさんがびっくりする時もあるぐらいでして……。とは言うものの、そこは学生街で長く店を出しているだけのことはあります。少ししかお金が入っていないからと言って、しけたまねはいたしません。貧乏学生達が、おなか一杯食べて、十分酔いが回るだけの料理とお酒を出してくださいました。こんなところでなんですが、おかみさんには心から感謝いたします。もちろん、気前よくおごってくださった教授にも。
そんな教授ですから、当然、借金の催促がくるわけです。
「あの〜、先生、そろそろ立て替えておいた本代をお支払いいただきたいのですが……」
しかし、教授は平然とした顔で、
「今、ないよ」
「そんなことおっしゃらずに、払ってくださいよ」
「うん、払いたいのはやまやまなんだけどね、でも、やっぱりないものはない。そうだ、君。なんなら、そこの本棚から、本代分、本を持っていってもらってもいいよ」
先生、そりゃ無茶っすよと言ったところですが、ともあれ、この掛取万歳は、借金をなんとか返さずにすむように、色々と知恵をひねるというものです。
まずは、狂歌好きの大家さんに対しては、「貧乏をすれどこの家に風情あり、質の流れに借金の山」なんて、うまいことを言って、大家さんを追い返し、「金を払ってもらうまでは、一歩もここを動かない」と言う魚屋さんに対しては、「本当に、払うまで一歩も動かないんだな。それじゃあ、1年でも2年でも、ここに居ておくれ」なんて、無茶苦茶なことを言ってあきれさせます。
落ちは、それじゃあ、一体いつになったら払えるんだいと聞かれて、
「100年過ぎればなんとか」