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ぶっつけ落

 えぇ、この噺は、下ネタのお話でございます。

 江戸時代、お芝居小屋には舞台番というのがおりました。彼は何をするかというと、客の子供やなんかが騒ぎ出したら、静かにさせるというのが仕事です。

 さて、この舞台番に半次が抜擢されます。彼は、仕事がもらえたと大張り切り。自慢の赤褌を締めて、舞台の袖で、たすきを掛け、尻をまくり、仁王立ちで、客席を見張っています。

 ところが、どういうわけか、自慢の褌がするっとゆるんでしまいます。しかし、半ちゃんは、そのことに気がつかず、一生懸命、客席をにらみつけています。

 観客としては、たまったものではありません。なにしろ、大きなものをぶらんとぶら下げた男が、恐い顔をして睨み付けてくるわけですから、そこかしこしで、クスクスと笑い声が上がります。そのたびに、半ちゃんが、ブランブランさせながら、「しっ」なんて言うものですから、次第に客席は笑いで大騒ぎとなります。

 ちょうど、演目は、『天竺徳兵衛謀反譲り場』の最後の「忍術譲り場」。忍者が印を結び、どろんどろんと大きな蛙が登場するところ。ところが、蛙役が一向に登場いたしません。

 何をやってんだと、蛙役が怒られると、クスクスと笑いながら、

「出られませんよ。だって、あそこで大きな青大将が狙ってるんですから」


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