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間抜落

 東京で一人暮らしを始めてから、さすがに出かけに鍵をかける習慣はつきましたが、帰ってから鍵を閉めるのを忘れて、そのまま寝てしまうことがしばしばあります。ひどい時には、朝起きて鍵がないと探していると、鍵穴にぶら下がったままなんてことも時々あります。こういうことを友人に話すと、

「それはシャレになっていない」

と叱られるのですが、別に僕はシャレで生きている訳ではないのだけど……。

 ともあれ。

 ヤキモチ焼きの男がおりまして、奥さんが通りで男と目があったと言っては、ふてくされ、魚屋の小僧さんに声をかけたと言っては、すねてしまうと言ったあんばいでして、そんなある日、家に帰ると奥さんの姿が見当たりません。家中探してみると、台所に風呂敷包みが置いてあります。中を開けると、男の着物と奥さんの着物なんかが入っていて、これはひょっとして、間男かなにかができて、今から駆け落ちでもしようとしていたんだろうか、きっとそうに違いないと、ひとりでやきもきしていると、奥さんが帰ってきます。

 どこに行っていたのか、いや、そんなことより、これからどこに行くつもりなのか、一体誰と出て行こうとしていたのかと奥さんを問い詰めるのですが、奥さんは知らぬ存ぜぬの一点張り。
 次第に状況はエキサイティングな方向に進み、「お前の顔なんか見たくない、出てけ」、「こっちこそ、出てくわ」といったところで、奥のふすまがスーっと開き、男が出てきます。

「お二人とも、落ち着きなさい。その風呂敷包みは、奥さんがこしらえたものじゃありません。お二人が留守の間に、すーっと入ってきて、お金になりそうなものを集めて、それを風呂敷きで包んで、背中にしょって外に出ようとしたところに、ダンナさんが帰ってきたってんで、大慌てで奥の押し入れにすっ飛んでいったものの、荷物を忘れてしまった男がいたんです。それがあたしなんですけども」
「じゃあ、なにかい。お前さんはドロボウさんかい?」
「世間一般では、そう言います」

 オチは、正直に出てきたドロボウに感心した男が、お酒を振る舞ったところ、酔いつぶれてしまったので、一晩留めることにした男が奥さんに、

「ドロボウが家の中にいるんだから、外にまわって、表からつっかえぼうをしておいで」


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