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途端落

 銀行に就職して、まずやらされることは、「大金を目の前にしても動じない」という訓練なのだそうです。実際、数字で1億円と言われても、桁が大きすぎてピンときませんが、1万円札の束で1億円出されると、よほどの人でないと動揺してしまうのだそうです。もっとも、僕なんかは10万円でフラフラっとしてしまいますけれど。

「おい、お二階のお客さまは、どうした」
「お客さま? 外から帰ってくるなり、寒気がするって、おやすみになっているよ」
「あのお客さま、千両当たったんだよ!」
「千両? へぇ、運がいいねぇ。でも、人のお金じゃ仕方ないでしょ」
「それが、お前、俺はあの人と千両当たったら半分もらう約束をしたんだ。いいから、酒の用意をしときな。魚もいいのを買っといで。俺はお客さまを起こしてくるから。……お客さま、お客さま。もしもし、起きてください。千両当たりましたよ。お客さま!」
「なんです、騒々しい。千両ぐらいで騒ぐものじゃないですよ。約束? えぇ覚えていますよ。500両は、ちゃんとあげますよ。だから、もうちょっと落ち着きなさい。せめて、下駄ぐらいぬいでから部屋にあがってらっしゃい」
「お客さまは、お金持だからそんなに落ち着いていられるんですよ。とにかく、下にお酒の用意をしてありますから、起きてください」

 そういって、宿屋の主人が布団をめくると、草履をはいたまま寝ている客の姿が……。


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