味覚

 お世辞にもグルメとは言えなかった我家の食卓は、アジの開きだの、イワシの丸焼きだの、サバの煮付けだの、基本的には魚系でした。たまに肉が食卓に並ぶなんてことになると、たとえそれがブタであれ、トリであれ、むさぼるように食べたものです。

 その結果、どうなるかというと、会話弾む食卓なんてのは別世界で、とにかく「食べるぞ、隙あらば妹の分も食べるぞ」と、食事中は料理に集中して沈黙状態となります。成人してからも食事中に無言になる習性は抜けきらず、たとえ愛する彼女とのデートであれ、食事タイムとなると、彼女と会話を楽しむなんてどころの話ではなくなってしまいます。そのため、なんども苦い経験をすることになるわけで、子供の頃の食生活は大切だと実感している今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 ともあれ。

 あっこさんも夫も、食べるのは好きと言うこともあって、食事はちょっとばかり豪勢です。豪勢でなくても、一工夫してあるわけで、きっと八重ちゃんはすくすく育たれることでしょう。

 そんなある日、いつものように食事を終えたあっこさんは、八重ちゃんに息を吹きかけました。何をしているのかとの夫の問いに、

「おいしい食べ物の臭いを教えてあげているの」


あっこさんメモ

 味覚を鍛えるには、まず嗅覚から。


 この話は実話を元に、冨倉が若干の脚色を行ったものです。実在の人物、場所、事件となにかの関連性があったとしても、それは気のせいなどではなく、多分本当に起こったことです。なお、本件に関する苦情、その他につきましては、冨倉までご連絡ください

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とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2001.02.17 $