勝負その1 : しかられた?

 さて、唐突に始まった(もっとも、知人によれば、僕の行動はいつだって唐突なのだそうですけど)『やえちゃん十番勝負』

 上司の奥様に飽きたらず、お子様までネタにしてしまうという悪逆無道さもさることながら、親子の関係を勝負に見立てるとは不謹慎ではないか、そもそも10個もネタがあるのか、などなど不安の種はいくつもありますが、基本的に後先考えずに行動することをモットーとしている(いやなモットーですけど)僕としては、とりあえず見切り発車してしまいます。


 さて、やえちゃんは間もなく1歳の誕生日を迎えます。

 そろそろ大人の言葉も解するようになり、ちょっとしたいたずらも始めるようになりました。いたずらと言っても、目覚まし時計の針をランダムに変えるなどというどこぞの誰かさんのような悪意以外のなにものでもないようなものではなく、実に可愛らしいものですけれど。

 その日、父親は新聞を読んでいました。あっこさんは、家事で忙しい。やえちゃんはポツンと一人で座っていました。そのやえちゃんの視界に、ひらひらと何かが動きました。興味を惹かれたやえちゃんは、そのひらひらを引っ張ろうとしました。その瞬間、

「ダメっ!」

と大きな声がして、怖い顔をした父親が目の前に現れました。やえちゃんが引っ張ろうとしたものは、父親が読んでいた新聞だったのです。

 びっくりしたやえちゃんは、かわいらしい目に涙を浮かべて、今にも泣き出しそうな顔になりました。

 慌てて父親は、笑顔を見せ、やえちゃんに頬ずりしました。

 とはいうものの、子供のしつけは早いほうがいいのだそうで、あっこさん夫婦も、そろそろ「しかる」ということを本格的に始めなければいけないと考えています。そういう意味では、今回のケースはまさに試金石です。今後はやえちゃんが何か悪さをしたときは、厳しくしかろうと父親は考えました。たとえ泣き出しそうな顔をしても、今度は頬ずりなんかしない。でも、本当に泣き出したら、ちょっと分からない。

 そんな複雑な気持ちになっていた数日後、再びやえちゃんは、父親が読んでいる新聞にちょっかいを出しました。

 今度も父親は「ダメ!」と強い口調で言いました。

 ところが。

 やえちゃんは、そんな父親にニコニコと微笑みを返しました。

 一度目は涙を見せる。二度目は悠然と構える。そんな女の武器を、早くもやえちゃんは身につけたようです。

 ともあれ、この勝負、やえちゃんの勝ち。


これまでの戦績

 1勝0敗


 この話は実話を元に、冨倉が若干の脚色を行ったものです。実在の人物、場所、事件となにかの関連性があったとしても、それは気のせいなどではなく、多分本当に起こったことです。なお、本件に関する苦情、その他につきましては、冨倉までご連絡ください

目次

とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2001.05.30 $