爪切り

 赤ちゃんの手を紅葉に例えるのは、実に言い得て妙ですね。

 しかし、美しいものにはトゲがあるように、可愛いものにも危険はつきまといます。実際問題、赤ちゃんの手は、凶器以外のなにものでもありません。

 邪気のない、しかし手加減もない赤ちゃんのツネリは、つねられた相手に結構深いダメージを与えます。あっこさんの夫も、最近、しばしば鼻の頭にひっかき傷をこしらえておられます。

 と言うわけで、あっこさんはやえちゃんの爪を切ることにしました。

 ベビーチェアにやえちゃんを座らせ、小さな手を引っ張り出し、パチンパチンと爪を切り始めました。

 すると、何が悲しかったのか、やえちゃんは瞳一杯に涙を浮かべ泣き始めました。

 それを見ていた夫は、自分の身の安全のためだということも忘れ、「やめてやれよ。泣いてるじゃないか」と厳しい口調であっこさんに爪切りをやめさせようとしました。

 すると、あっこさんは、

「これ、うそなきよ」

 その瞬間、やえちゃんはピタッと泣くのをやめ、決まりの悪そうに笑みを浮かべました。

 子を知るに親にしくはなし。しかし、娘を知るのはどうやら母親のようで……。


あっこさんメモ

 女の涙が通用するのは男だけ


 この話は実話を元に、冨倉が若干の脚色を行ったものです。実在の人物、場所、事件となにかの関連性があったとしても、それは気のせいなどではなく、多分本当に起こったことです。なお、本件に関する苦情、その他につきましては、冨倉までご連絡ください

目次

とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2001.06.26 $