著者 | 貴志祐介 | ||||
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タイトル | 黒い家 | ||||
出版社 | 角川ホラー文庫 | 出版年 | 1998年 | 価格 | 680 |
評価 | ★★★ |
この小説が、1980年代、あるいは90年代初頭に書かれたのなら、恐らく普通の推理小説になっていたのではないでしょうか。例えばこんな風に。
保険会社に勤める主人公が、ひょんなことから訪れた家で、子供の自殺死体の第一発見者になってしまう。不審な点が多々ある父親には、鉄壁のアリバイが。そのアリバイを主人公が一つ一つ崩していき、ようやく逮捕という段階になって、その父親も死体となって発見される。真犯人は一体誰?
しかし、時代は2000年。犯人探しなどというまだるっこしいことはやっていられません。
恐らく多くの読者は、最初の電話の場面で子供殺しの犯人が分かってしまうのではないかと思います。古典的な推理小説では絶対条件である「誰が」「なぜ」「どのようにして」犯罪を犯したのかを読者に問いかけることは、この小説では全く必要とされていません。 この小説では、殺人者に命を狙われること、その一点だけで話が進んでいきます。「誰が」「どのようにして」人を殺したかは、最初から読者に提供されています。そして、「なぜ」についても、「ただ邪魔だから」と明確すぎるほど明確です。
ネタばらしになるといけませんので、これ以上本文に立ち入るのはよします。何が恐いかは、ご自分でお確かめください。
ちなみに、この本を紹介してくださった知人の話によると、映画については「センスのなさにちょっとご立腹」なのだそうで、できれば本をお読みになることをお勧めします。