著者 | 宮台真司 | ||||
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タイトル | 権力の予期理論 | ||||
出版社 | 勁草書房 | 出版年 | 1989年 | 価格 | 2680 |
評価 | ★★ |
宮台の権力論の最大の特徴は、従来、権力者側から権力を説明してきたのに対して、被権力者側から説明を行っているという点にある。
例えば、行為者Aが行為者Bに対してピストルを突き出し金を出せと言う場合、従来、行為者Aのピストルという「強制力」こそが、権力の基盤であると説明されてきた。これに対して、宮台は、行為者Bが、「金を出さなければ撃たれる。金を出せば撃たれない。ならば、金を出そう」と「予期」することこそが、権力関係を基礎づけるとする。
ここで重要なのは、行為者Bの予期が当たるかどうかは、少なくともその時点での行為者Aと行為者Bの関係には影響を与えない点にある。勿論、行為者Bの予期が外れたことは、その後の行為者Bの予期には大きな影響を与えることになる。
宮台の理論は、吉本隆昭の「共同幻想論」に通じるものがある。そのため、共同幻想論と同じく、最初の予期が起こるのはなぜか、言い換えれば予期の要因は何かという点について、十分な説明がなされていないという問題がある。
しかしながら、宮台の理論は、いわゆる最近のモラルハザードを説明する上で、非常に重要な役割を果たすように思える。その意味で、宮台の権力論は、いまだ現代性を失っていないと言える。