著者 | 安能務 | ||||
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タイトル | 韓非子(上下) | ||||
出版社 | 文春文庫 | 出版年 | 2000年 | 価格 | 各476 |
評価 | ★★★ |
最近僕が好きな歴史小説家は、塩野七生と安能務です。
塩野はイタリア半島史、安能は古代中国史と分野こそ違うものの、両者には、一つの共通点があります。それは、両者が、政治と倫理を切り離して考えているという点です。塩野がマキアベリを取り上げていることと、安能が韓非子を取り上げたことは、非常に示唆的です。マキアベリと韓非子は、ともに政治的な成功とは秩序を形成する(あるいは維持する)ことを意味するという点で一致しており、同時に秩序の形成には、必ずしも倫理的目的と合致するものではない点でも見解を同じにしています。したがって、塩野と安能の価値判断基準には、倫理的・道徳的基準が入り込む余地はなく、また、政治が基本的には直面している時代の状況に対応するためのものであるという観点から、あくまでも「当時の状況に」有効であったかどうかが問われることになります。
政治に倫理が全く必要ないかどうかについては、大いに議論すべき点です。しかしながら同時に、政治家の役割が、社会状況の不安定原因を取り除くことにあるとするのであれば、安定している時代に倫理的規範を逸脱してあえて混乱を起こすというのは論外でにせよ、混乱した時代には、倫理的妥当性よりも政治的有効性を優先すべきとの韓非子の主張は非常に説得的です。
本書は、『韓非子』の内容紹介となっています。韓非の伝記を期待していてる方は、姉妹書『始皇帝』をお読みください。