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紋切型辞典

著者G.フロベール
タイトル紋切型辞典
出版社平凡社 出版年1998年 価格800
評価★★

【感想】

 「悪意に満ちた善意の書」とは、実にうまく言ったものです。

 本書は、日常の会話で出てくる言葉の最も無難な使い方を例示しています。

 この辞典の存在によって我々は、気の利いたことを言う人と思われるためには、日常会話においてどのように受け答えをするのが最も適切なのか、といったことに頭を悩ますことから解放されます。それにより、思考は大幅に省力化され、我々はもっと重要なことに意識を集中することができるわけです。現代のように、多くの情報があり、一人の人が多くのことを考えなければならない時代において、フロベール自身がいみじくも言ったように、本書はまさに「時宜にかなっている」と言えましょう。

 実際本書は、他のこの種の辞典(たとえばビアス氏の辞典など)とは異なり、言葉の説明において、一切の悪意を排除してあります。そのため、本書の字句通りの使い方をしたからといって、「気取っている」とか、「斜に構えている」などといった非難を浴びることはありません。そういう意味でも、本書は有益と言えましょう。

 惜しむらくは、本書が未完のまま終わったことです。

 それにしても、フランス人というのは、手の込んだことが好きですね。


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とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2000.08.31 $