著者 | カート・ヴォネガット | ||||
---|---|---|---|---|---|
タイトル | タイムクエイク | ||||
出版社 | 早川書房 | 出版年 | 1998年 | 価格 | 1900 |
評価 | ★★★★★ |
この小説は、時間のねじれによって、人類全体が1991年12月27日から2001年2月13日までをもう一度、繰り返す羽目になってしまう「タイムクエイク」という出版されなかった小説から、あらためて著者が一番伝えたかったことを切り出した作品という複雑な構造を持った小説です。
10年前に戻りたいと僕たちが言う場合、それは過去の失敗をもう一度やり直すことを目的としています。しかし、タイムクエイクでは、過去の失敗を含めて、10年間分もう一度同じことを繰り返すだけです。想像できますか。恋人の前でやらかした間の抜けた行為をもう1回繰り返してしまうなんてことを。
ともあれ。
ヴォネガットは、確かに一つの良心の体現とでも言うべき存在なのですが、しかし彼は、自分の良心を決して押しつけるような野暮なことはせず、シニカルなユーモア+少しばかりの照れ隠しに姿を変えて伝えようとします。そのことは僕のような直接的な感情表現に戸惑いを感じるような人間にとって、実に心地よいものです。
本書は、ヴォネガット自身が、
「これは一本立ちの小説じゃない。一冊の長い本の最終章なんだ。その長い本というのは、これまで活字になったわたしの全作品、全仕事というわけさ。」
と言うようにヴォネガット作品の集大成とでも言うべき作品で、それに恥じないだけの出来上がりになっています。ヴォネガット・ファンは必読と言えましょう。