三国演義　第三巻

【感想】

　安能氏の描く歴史小説を軽い興奮を持って受け入れられるのは、僕が、政治において必要なのは、目的の正しさではなく、結果の妥当性ではないかと考えているような人間だからかもしれません。

　少なくともここまでのところ、安能氏は、孔明を神懸かり的な軍師として描かず、自負心の強い若き野心家として描いています。このような描き方は、あるいは孔明ファンの怒りをかうのかもしれませんが、しかし、誰にでも若かりし頃の過ちというか、若さ故の暴走はあるのではないかと思います。

　また、劉備についても、単純な人徳者ではなく、人徳者として振る舞う事による効果を熟知している政治家として描いています。こちらもまた、劉備ファンに怒りをかう描写なのかもしれません。ただ、興味深いのは、安能氏は、決して劉備を偽善者として捉えているわけではないということです。むしろ政治においては、偽善であっても周囲を納得させる能力があれば、それはそれで政治家として有能であるとします。

　ともあれ、本巻は有名な赤壁の戦いを中心に展開します。結果を知っている方も、そうでない方も、良質な意味での乾いた歴史小説を読みたいと思っている方は、ぜひ一度お読みください。