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水素製造法

著者かんべむさし
タイトル水素製造法
出版社徳間書店 出版年1981年 価格340
評価★★

【感想】

 高校時代、僕はSFを読みあさっていました。もっとも、僕のことですから、きちんと体系的に読むようなことしていないのですけれど。

 さて、かんべむさしです。

 本書『水素製造法』は、その馬鹿馬鹿しさ、くだらなさにおいて、当時読んだSFの中でも群を抜いて笑わされた1冊です。

 内容そのものは、就職試験において、文系の学生が、「水素の作り方を述べなさい」という設問に対して、国語辞典だけを頼りに悪戦苦闘する様を淡々と描いたものです。

 理系の問題に対して辞書を唯一のよりどころにして取り組む気持ちは、文系の僕には痛いほど分かります。「辞書遊び」という遊び方を覚えたのも、本書を読んでからだったような記憶があります。

 ちなみに、主人公の書いた解答は下記の通り。

【水素ガスの製造法】
 そもそも水素とは、無色・無味・無臭のガス体元素である。これは一番軽いのである。だから風船に入れるのだ。それはともかく、ここで人は元素とはなにかと聞くであろう。
 元素とは何か。それは、もはや分解できないもので、この宇宙間の物質を構成しておるものなのである。もはや分解できないものを製造しろとは不能ではないかという人もいるだろうが、解答者はまだ若いから決して不能ではないのであって、一定の形や体積は定まっておらず、いっぱいになるほどのこともあるのである。水爆級で核のエネルギーを解放するわけなのだ。
 話を戻して、論旨を明快にするが、原子もそれ以上には分けることができず、すると人は、もはやとそれ以上との差異を明快にしろと迫るであろうが、これは単なる形容の違いとでも言わなければ仕方がないのである。
 言葉とは不思議なもので、辞典さえ、完全には説明しきっていないのです。
 ともあれ。もはや・すでに・もう、あるいは、これからこれ以後これ以降、分けることのできない元素のひとつ、それが水素なのであり、これは亜鉛に関係があると思います。
 亜鉛は青白く、水素は無色である。これが互いに密接に関係しあっているとは、まさかお思いにならないでしょうが、実は関係しているのです。ヘラクレイトス曰くの万物は流転するのたとえです。
 燃やすとは、火がついて炎が上る状態にすることであり感情の場合にも使うのです。
 炎・熱・光、これらが発生するのが燃焼で、酸素があれば大丈夫です。酸素とくれば水素。ここでようやく、水素がその姿を現わし、ホッとして水へと到達します。するとどうだ、水は水素と酸素の化合物ではありませんか。かくして水素をつくるには、水をいちいち分けていけばいいことが判明するのです。

 今読み返しても、やっぱり笑ってしまいました。


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とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2001.06.21 $