著者 | カール・ヤスパース | ||||
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タイトル | 哲学の世界史序論 | ||||
出版社 | 紀伊國屋書店 | 出版年 | 1985年 | 価格 | 2600 |
評価 | ★★★ |
本書は、タイトルにもあるように哲学史を叙述するための序論となっていますが、しかし、「序論」だけあって、基本的な部分は哲学に限らず、歴史叙述一般に言えることではないかと思います。
表層的な出来事とその背後にある大きな潮流とを区別し、重要なのは背後にある潮流であるとする認識に立ちながら、なおかつ、背後の潮流を理解するためには表層の事件を詳細に検討しなければならないという歴史に対する認識は、非常に健全なものだと思います。80年代に流行したシステム論的な物事の理解の仕方に一定の共感を覚えた僕のような人間にとっては、ヤスパースの歴史認識に、心強いものを感じます。
他方で、ヤスパースの歴史認識の特徴である「歴史は克服された誤謬の系列であると共に、正しい認識の獲得と蓄積に関する進歩である」という考え方には、そこまで楽観的になっていいものかどうか疑問符をつけざるをえません。
むしろ、歴史にはある種の断絶があるのではないか、特に思想史においては、それが強いのではないかと思います。なるほど確かに、現時点においては、情報としての思想について保存はある程度なされているのかもしれません。しかし、それはこれから先「常に」ということを保証するものではないのではないか、これまでの歴史がそうであったように、これからも思想史の断絶は十分に起こりうるのではないかと思います。言い換えれば、再び同じような過ちを「人類」として起こしうるのではないか、車輪をなんどもなんども再発見する労力を費やすのではないかと思います。
少なくとも、「今大丈夫だからと言って将来まで大丈夫」との現状理解を行うべきではないし、例えそれがカナリヤの叫びに終わるとしても、知識人は常にその警鐘を鳴らすべきだと思います。