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博物誌

著者ルナール
タイトル博物誌
出版社新潮社 出版年1954年 価格438
評価★★★★★

【感想】

 詩的で情緒感たっぷり。それ以外の言葉が見つからないくらい、この作品は、いかにもルナールらしい対象に対する温かな視線で、普段我々が見過ごしているものを、あらためて新鮮な感覚で提示しています。

 普段我々が日常の騒々しさに巻き込まれて、ついつい視線から無意識に外してしまっているものを大上段に構えることなく、新しい発見として目の前に持ってくることも、作家の役割の一つなのではないでしょうか。

 ともあれ。

 この作品のなかで登場するアベル少年のお母さんの教育方法は、ちょっと素敵です。

 そこで、私は彼と一緒に、蝸牛を仕込むのはなかなか骨が折れるということを頻りに話し合いながら、ふと気がつくと、彼は「うん」と返事する時でも、「いいや」という身振りをしている。
「おい、アベル」と私は言った−「どうしてそんなに首を動かすんだい、右へやったり、左へやったり?」
「砂糖があるんだよ」
「なんだい、砂糖って?」
「そら、ここんとこさ」
 で、彼が四つん這いになって、第八号が仲間にはぐれそうになっているのを引き戻している最中、その頸に、肌とシャツの間に角砂糖が一つ、ちょうどメダルのように、糸で吊してあるのが眼についた。
「ママがこんなものを結えつけたんだ」と彼は言う。「言うことをきかないと、いつでもこうするんだよ」
「気持ちが悪いだろう?」
「ごそごそすらあ」
「ひりひりもするだろう、え! 真っ赤になってるぜ」
「その代り、ママが勘弁してやるって言ったら、こいつが食えらあ」とアベルは言った。

 飴と鞭という言葉がありますけれど、これは飴が鞭になっている。アベルのお母さんは、本当に頭がいい。


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とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2001.09.03 $