著者 | モリエール | ||||
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タイトル | いやいやながら医者にされ | ||||
出版社 | 岩波書店 | 出版年 | 1962年 | 価格 | 150 |
評価 | ★ |
古典的な名作は、やはり「古典」になるだけの理由があります。おそらくそれは、その作品の独自性というよりは、時代や地域による制約は確かにあるのでしょうが、それをも超える着想の共感性によるものではないかと思います。
しかし、他方で、古典的名作は、その優れた着想故に各種の別種、変種を生みだします。
おそらくここに、古典的名作の悲劇があるように僕には思えます。つまり、現代に生きる我々は、古典的名作にたどりつく前に様々な同工異曲に出会う可能性が高いわけです。その同工異曲的な作品が、優れたものであれ、そうでないものであれ、それによってオリジナルの持つ独創性が薄められることは否めません。その結果、我々が古典的名作にようやくたどりついたときには、その新奇性を認めるまでに少なからぬ想像力と背景を理解する知識を求められることになります。
モリエールの『いやいやながら医者にされ』は、まさにそうした典型でしょう。本書は、木こりが、ちょっとした運命のいたずらで名医とされ、口から出まかせの処方をすることで、ますます名医の評判を高めていくという喜劇です。
今、現代の僕が読むと、いかにもひねりもなにもないと思ってしまうわけですが、それはまさに同工異曲の作品を僕が知ってしまっているからでしょう。多分、当時はこれで充分観客を満足させたんでしょうね。