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著者 | A.J.トインビー | ||||
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タイトル | 現代が受けている挑戦 | ||||
出版社 | 新潮社 | 出版年 | 2001年 | 価格 | 667 |
評価 | ★★★★★ |
社会思想社とか、岩波ならともかく、まさか、新潮社がトインビーの作品を出すなんて……。時代は変わったものです(感慨)。
本書は、例のアメリカのテロを受けて、緊急発刊されたものですが、改めてトインビーの歴史認識の鋭さに驚かされます。
僕自身、高校時代にトインビーに触発され、その後、ブローデルに走ったような人間なので、どうしてもトインビー系の評価は甘くなってしまうのですが、それを差し引いても、「事件史」ではなく、トインビー的な「全体史としての歴史観」には非常に魅力を感じます。 歴史は、確かに繰りかえすことはありません。個々の事件は、時代的、地域的、人間的な様々な要素が複雑に影響しあった結果発生するわけで、二度と同一の状況にはなり得ない以上、同じことは起こり得ないわけです。
しかし、そのことと全く矛盾せずに、歴史は未来を予測する上で貴重な指標となり得ると僕は思います。なぜなら、人間はそれほど決定的な変化(進歩と言ってもいいのかもしれませんが)をしているわけでもなく、生物学上、人種的な差は確かにあるのかもしれませんが、それが人間の行動に絶対的に影響するわけでもないと僕は思います。そうである以上、あるアクションがどのような結果を生むのか、現在の状況がどのような方向に進もうとしているかを歴史から推測することは十分できると思います。
もちろん、トインビーの歴史観、さらにはそれに則った政治観が全面的に正しいとは思いません。例えば本書に登場する「偏在」にしても、トインビーが考えたようなプラスの要素よりは、マイナスの要素の方が多いように僕には思えますし、世界政府構想にしても全面的な肯定はできません。
しかしそれでも、本書が指摘している様々な現状の問題は依然として現代的な意義を十分に持っていると思います。とりあえず、テレビのキャスターや新聞の論説委員の方々が得意げに展開している間の抜けた外交論の多くが、トインビーが30年以上前に指摘していることに気付いて欲しいと正直思います。特に産経(フジテレビ)関係者の方々。
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