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浴室

著者ジャン=フィリップ・トゥーサン
タイトル浴室
出版社集英社 出版年1990年 価格1000
評価★★★★★

【感想】

 本書の主人公「ぼく」は、浴室で生活をしています。

 こう書くと、今流行の引きこもりかと思われるかもしれませんが、「ぼく」は開始からわずか11番目のパラグラフで浴室を出てしまいます。リビングから気に入った本を持ってきたり、ラジオを取りに行ったりするだけでなく、気の向くまま外出したりします。さらには、唐突にイタリア旅行に出かけたりもします。それでもなお、彼は、相変わらず自分の思考の中だけで生きています。パリを唐突に飛び出し、イタリアに行って、冒頭の「直角三角形の斜辺の二乗は他の二辺の二乗の和に等しい」というピタゴラスの定理をなぞったあげく(しかも、必ずしも忠実にではなく)、ラスト、再び彼は第1章の11番目のパラグラフに戻ってしまいます。

 恐らく、この話は何度も何度も、それを繰りかえすのでしょう。登ることもなく降ることもない、出口のない永遠の世界。それを現代人が抱えている病理と言ってしまうのは、あまりにも陳腐なわけで、トゥーサン自身、そんなことは考えてもいないでしょう。むしろ、トゥーサンは、溢れんばかりの自分の才能を文字にし、それを読者に(ちょっとした挑戦状として)叩きつけただけ、そんな気がします。

 若く自分の才能にまだ絶対的な自信を持っている。そんな元気あふれる作家が、グダグダの内容(いい意味で)を書いている。僕はそれがすごく面白いと思います。

 そんなに長い話ではないので、どこかで見かけられたら、ぜひ立ち読みされることをお勧めします。


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とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2002.03.23 $