|Home / 読後感想 | |
著者 | トーマス・パヴェル | ||||
---|---|---|---|---|---|
タイトル | ペルシャの鏡 | ||||
出版社 | 工作舎 | 出版年 | 1993年 | 価格 | 1800 |
評価 | ★★★★ |
哲学のひとつの仮説として可能的世界というテーマがあります。言うまでもなくライプニッツの例のあれですが、本書はその可能的世界を鏡というモチーフで実にうまく扱っています。
物語は、若い研究者のルイがライプニッツの弟子の手による『形而上学叙説』への批判的注釈書を発見することから始まります。その後、ルイが出会う数々の書物とルイの実生活とが微妙に重なり合い、次第に書物の中の様相がルイの実生活の様相へと入り込んできます。
ここで先ほどの鏡のモチーフが実に巧みに活きてきます。書物の世界とルイの世界は、確かに重なり合っていくのですが、それはあくまでも鏡として、言い換えれば、全く生き写しながら、左右だけが逆転した世界となっています。メタ小説と鏡を使うことによって、『ペルシャの鏡』で描かれる物語構造は、読んでいてため息が出てしまうほど巧妙にできています。
分類で言えば限りなく短編に近い中編小説になるのでしょうけれど、書物への深い知識を元にした小説は、ボルヘスやレムとも通じるものがあります。
ちょっとしたトリップ感を感じたいときにお薦めの一冊です。
|Home / 読後感想 | |