Home / 読後感想
掲示板】【Mail

意識に直接与えられたものについての試論

著者アンリ・ベルクソン
タイトル意識に直接与えられたものについての試論
出版社筑摩書房 出版年2002年 価格1200
評価★★★

【感想】

 僕の周囲だけかもしれませんが、法学部出身者もしくは法学的な仕事をしている人の考える「自由」は、比較的素朴なものだったりします。

 概ね法学部系の人間にとって、公法分野であれ私法分野であれ、自由が問題になるのは、「自由が制限される根拠は何か」に落ち着きます。従って議論されるのは、ある局面における自由の制限が妥当かどうかであって、そもそも自由とは何かについては、それほど込み入った議論はなされていないのではないかと思います。

 無論、法学における自由の概念は、「〜からの自由」という18世紀的なものから、「〜への自由」という20世紀的な概念へと進化しているとはいえ、少なくとも近代法においては、自由は(与えられるものか、それとも獲得すべきものかとの議論はあるものの)所与の前提として位置づけられることになります。

 しかしながら人文科学系では、自由に関する議論は、それほど単純なものではなく、そもそも我々が「自由な選択」を行うことが可能なのかどうかが議論されているわけです。

 古くは、「神の定めたもうところ」としての運命論を根拠とする自由の否定があり、近代以降、物理学や心理学、神経学が発達してくると、因果関係を根拠とする自由の否定が、僕達の「自由な意思に基づく決定」への疑惑を投げかけてきています。

 本書は、そうした自由に対する否定・肯定両方の説を整理し、それぞれの説に対してベルクソンなりの批判がなされている点で、非常に興味深いものです。

 この本でベルクソンは真正面から自身の自由論を展開していないので、ベルクソンの自由論を期待している人にとっては、やや物足りないと思われるかもしれませんが、自由に関する問題が依然として解決されていない以上、新しい自由論を展開する上で、本書は必読だと思います。少なくとも、来年、法学部から哲学に華麗な転進をされようとしているKさん、絶対読んでおくべきですぜ。


Home / 読後感想
掲示板】【Mail

とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2002.07.13 $