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著者 | ジャン=エンデル・アリエ | ||||
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タイトル | 先に寝たやつ相手を起こす | ||||
出版社 | 早川書房 | 出版年 | 1981年 | 価格 | 1000 |
評価 | ★★★★ |
驚くほどよくできた小説です。
プロット的には、仲の良い兄弟の弟の方を主人公にし、二人の少年時代、正確には11歳で亡くなった兄が元気だった頃の思い出を中心に述べていく非常に単純なものです。突然登場し、やはり突然二人の前から消えてしまった少女への感情や、奇妙な行動をする子供達に戸惑う両親など、この手の小説の王道をきちんとおさえています。さらに言えば、純真で汚れない子供達という位置づけではなく、大人には理解不可能な(あるいは悪意に満ち、攻撃的な)独特の世界を構築し、その中で生きている子供としてとらえる手法も、日本の小説ではまだまだ少ないようですが、ジッドの贋金に代表されるように、ヨーロッパではスタンダードな手法です。
しかしながら、この小説は単なる子供の世界を描いたものではありません。
物語の半ばで描かれる兄弟の「ごっこ遊び」によって、この小説は急速に挑戦的なものへと変わっていきます。
一人数役を演じ分けることができる兄弟の「ごっこ遊び」で、語り手である「弟」は次第に信頼のおけない語り手へと変貌していきます。それは「兄」が存在することの信頼性が揺らいでいくだけでなく、「弟」そのものの存在も怪しいものになっていきます。最終的にはラストの「弟」の告白を字句通り受け取っていいものなのかすら、非常に怪しいものになります。そこには、「あなたには私の意図が分かりますか?」というアリエの尊大な問いかけが不気味なまでの横たわっています。
好きか嫌いかと言われれば、僕自身は「趣味じゃない」としか言いようがないのですが、それでも素直によくできた小説だと思います。幻想的で耽美的で怪奇趣味な小説がお好きな方にはお勧めです。
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