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著者 | ジャン・グルニエ | ||||
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タイトル | 孤島 改訳新版 | ||||
出版社 | 筑摩書房 | 出版年 | 1991年 | 価格 | 1960 |
評価 | ★★★★★ |
誤解を恐れずにあえて言えば、小説家の役割は、何か新しいことを読者に提示することではなく、読者が感じていること、とは言いつつ、それを言語として説明できないことを、言語化することだと、僕は思います。その意味で、僕は小説は読者との共同作業だと思っています。言い換えれば、僕自身も含めて、人は見えているものを見ているのではなく、見たいものを見ているのだろうと思います。したがって、たとえ僕が、ある小説について価値を全く感じられなかったとしても、それは作家のせいではなく、むしろ僕が作家の問題意識を共有していないからだと思っています。
とは言いつつ、小説を読んでいて、やはり心地よい感情になるのは、僕が今感じていることを、ぴたりと書いているものと出会ったときです。そして、今、僕は手放し状態です。
本書はグルニエのエッセーです。
本書には、最近流行している「癒し」の要素は全くありません。むしろ、普段僕が好んで読んでいるちゃらんぽらんなものとは違い、昔ながらの深刻な問題を扱っています。さらに言えば、グルニエ自身、自分の抱えている問題を、結局のところ解決できずに、これまた昔ながらの堂々巡りに終始しています。
ただ、僕自身、今なにか不安を抱えているというわけではなく(もっとも僕の場合、根が脳天気かつ忘れっぽいので、不安を抱え続けていることってないのですけれど)、そのために特に解決策を欲していないから、こんなことが言えるのでしょうけれど、僕は誰か他人に正解を教えてもらいたいとは思いません。結果的に間違いだとしても、自分で自分の正解を見つけ出せればいいなと思っています。さらに誤解を恐れずに言えば、正解がわかってしまうのって、それはそれでつまらなくないですか?
ともあれ、本書は、心の平安とかなにかの解決策を求めている人には、たぶん、用のないものだと思います。ただ、もし漠然とした不安を感じつつ、その不安が何かわからないことが不安だという、ちょっとややこしい状態になっているのなら、本書はお薦めです。
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