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著者 | 田中啓文 | ||||
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タイトル | 笑酔亭梅寿謎解噺 | ||||
出版社 | 集英社 | 出版年 | 2004年 | 価格 | 1800 |
評価 | ★★★★★ |
謎解きとしてのミステリーとしては、多分、あまりできがいいとは言えないと思います。しかし、
いいです!
僕が落語好きということもあるのかもしれませんが、引き込まれるようにして、一息に読み終えてしまいました。
なんと言っても笑酔亭梅寿のピカレスクな生活がいいです。金銭感覚なし。常に二日酔い気味。気に触ったことがあると鉄拳を飛ばす。でも高座に上がればピカイチ。春団治の例を出すまでもなく、関西の人間って、こういう芸人好きなんですね。
また、梅寿が演じる落語の紹介の仕方も秀逸です。筋と聞かせどころを丁寧に説明されているので、落語をあまり知らない読者はもちろんのこと、落語好きにとっても、ついつい「そうそう! そこそこ! そこが面白いんだよ」と嬉しくなってしまいます。梅寿、竜二が演じている落語のネタそのままを記述しているわけではないのですが、読んでいてまるで本当に寄席で聴いているような気持ちになりました。野暮天は承知の上で、梅寿がしているであろう噺をサイトに書いてしまおうかなと思ったほどです。例えばこんな感じになるのでしょうか。
えー、毎度、馬鹿話にお付き合いください。
「これ、定吉。定吉」
「へーい」
「なんや、そこにおったんか。お前は返事がええなぁ。ええことや。奉公してるときは、立つよりも矢声やゆうて、返事が一番。朝、起きるときもそやで。起きるのは少々遅うなってもかめへん。せやけど、返事だけは一番にしなはれや」
「へぇ」
「そんでな、お前呼んだんは、これ、この書き付けをちょっと届けてほしいんや」
「どこに届けるんです?」
「ここに書いてある」
「旦さん、あかしません。わて、字、よー読まれへん」
「そやったな。これはな、『平林』て書いてあるんや。三軒茶屋におらはるさかい、ちょっと急ぎで届けて」
「へーい」なんて、定吉は主人の書き付けを持って店を出まして、忘れんように「ひらばやし、ひらばやし」言いながら歩いとりました。
「ひらばやし、ひらばやし、ひらばやし、あー、柿がなっとる。うまそうやなぁ。うまそうやな、うまそうやな、うまそうやな……。ちゃうねん。うまそうやなやあらへん。あれ? どこに届けるんやったやろ。どないしよ、わからんようになってもうた……。ちょっと、ちょっと、すんまへん。この人のところに届けたいんやけど、なんて書いてあるんでしょう?」
「ん? それはな。『たいらばやし』て書いてあるんや」「へぇ。たいらばやし。おおきに。たいらばやし、たいらばやし、たいらばやし……。なんかちゃうなぁ。ちょっと、ちょっと、すんまへん。この人のところに届けたいんやけど、なんて書いてあるんでしょう?」
「ん? それはな。『ひらりん』て読むんや」「へぇ。ひらりん。おおきに。ひらりん、ひらりん、ひらりん……。やっぱり、ちゃうわ。ちょっと、ちょっと、すんまへん。これ、なんて書いてあるんでしょう?」
「ん? んー、最初が『一』やろ。次が『八』に『十』や。それで『木』が二つやから……。『いちはちじゅうのもくもく』そう書いてあるんや」「へぇ……。いちはちじゅうのもっくもく、いちはちじゅうのもっくもく、いちはちじゅうのもっくもく……。絶対ちゃうような気がしてきた……。すんまへん。この字やけど……」
「あはは、それはお前、さいぜんのやつ、よう読まれへんかったんや。これはな、『ひとつ、やっつのとっきっき』て読むん」「うーん、やっぱり違うような気がする……。ええわ。どれか当たっとるやろ。『たいらばやしか、ひらりんか、いちはちじゅうのもっくもく、ひとつ、やっつのとっきっき』……」
「おい、お前、お前や。なにぶつぶつ言いながら歩いとるねん。気でも違ったか」
「いえ、字がちごとります」
うーん、やっぱり僕では力不足ですね。
ともあれ、この本を紹介してくださった もりりんさんに感謝、感謝。
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