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著者 | ジャージ・コジンスキー | ||||
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タイトル | 庭師 ただそこにいるだけの人 |
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出版社 | 飛鳥新社 | 出版年 | 2005年 | 価格 | 1700 |
評価 | ★★★★★ |
素敵な小説に出会ったとき、早く続きを読みたいと思う一方、その先に進みたくない、結末にたどり着きたくないという両方の気持ちの間で揺らぎます。本書はまさにそんな1冊でした。ページを繰るのももどかしく、どんどん先に進むのと同じくらい、何度も前のページに戻り同じところを読み返す。そんなことを繰り返しながら読んでいました。今年のベストな1冊になると思います。
本書は、典型的なスラップスティックな喜劇です。
スラップスティックと一概に言っても、いろいろなパターンがあるわけで、それぞれ好みがあるかとは思いますけれど、僕が好きなのは本書で描かれているような
非常識な状況におかれた人物が、大まじめに常識的な対応をすることで、さらに状況が混沌とする
タイプのものです。
主人公のチャンス氏が、ひょんなことから大富豪の家に招かれ、そこで本人としては特別に気の利いたことを言ったつもりもない発言が深読みされ、あれよあれよという間に世間の注目を集め、気がついたら全く本人が望んでいないのに次期大統領候補に祭り上げられていきます。要約してしまえば、それだけの話なのですが、でもその過程が本当に抱腹絶倒です。
例えば、チャンス氏はこんな発言をします。
「庭には成長にふさわしい季節があります。春と夏がありますが、秋と冬もあります。そしてまた春と夏がやってきます。根が切り離されていないかぎり、心配はいりません、すべてうまくいきます」
チャンス氏にしてみれば、素直に庭の話をしたつもりです。
あるいは、また。
「私は書けません。読むことさえできないんです」
チャンス氏は正直に自分が文盲であることを述べただけです。
ところが、こうしたチャンス氏の裏表のない発言が、聞き手の好ましいように解釈され、あたかも低迷する経済を立て直す第一人者に仕立て上げられていきます。
一事が万事こんな感じで、チャンス氏の発言が一人歩きする様が、すごく良質のスラップスティックとして本当に面白いです。
なおなお。
本書は、ピーター・セラーズが主演する『チャンス』の原作です。ピーター・セラーズのファンの方にも是非お勧めします。
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