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著者 | アンドレーア・ケルバーケル | ||||
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タイトル | 小さな本の数奇な運命 |
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出版社 | 晶文社 | 出版年 | 2004年 | 価格 | 1400 |
評価 | ★★★★★ |
気分が落ち着く場所って、皆さんそれぞれお持ちではないかと思います。例えば、お風呂とかトイレの中とか。僕の場合は、細々したものが雑然と並べられている文房具屋さんと、そしてもちろん本屋さんです。中でも古本屋さんの薄暗い店内は、ちょっとした宝物庫のようです。特に、いわゆる新古書店ではなく、昔ながらの古本屋さんの本棚には、時として思わぬ本がひっそりと並んでいたりして、何時間いても飽きません。
そんな本好きの人にとっては、深く共感できるのではないかというのが本書です。
本書は、古本屋さんから買われてきた本が、自分を書いた作家のこと、これまでの持ち主のこと、持ち主の家や古本屋で隣人になった数々の本のことを語っています。
どうやら1930年代に書かれたこの「本」は、なかなか慎み深い性格のようで、自身のことはほとんど語りませんが、それでも作家の代表作でこそないものの、それなりに高い評価を受けた1冊のようです。内容的にも、女性が「面白そう」と言って気軽に手に取れるくらい堅苦しくなく、それでいて、多感な青年が何度も読み込むほど味わい深いもののようです。
個人的には、この「本」が持ち主の本棚や古本屋で出会った様々な同族について、簡潔でそれでいて的を射た評価が、かなりいいです。思わずニヤッとさせられたり、感心させられたり、それよりもなによりも、古典案内としてきちんと成立しています。
ストーリーも、「本」の生い立ちから4人目の持ち主に買われるまでの遍歴を、あちらこちらに寄り道しつつ、感傷的になりすぎない範囲でそれぞれの持ち主の人生の悲喜こもごもを描いていて、素直にうまいなと思います。
本が語るというちょっと変わった内容で、映像化しにくいのだろうなとは思いつつ、映画で見てみたいと思った一冊でした。
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