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著者 | パオロ・マウレンシグ | ||||
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タイトル | 狂った旋律 |
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出版社 | 草思社 | 出版年 | 1998年 | 価格 | 1800円 |
評価 | ★★★★★ |
マウレンシグという作家のことは全くノーマークだったのですけれど、凄い作家が現れたものだと驚いています。
本書は、一人目の語り手である「私」がオークションで古いバイオリンを落札したところから始まります。その「私」に対して、バイオリンを買い取りたいという自称小説家の「私」、その小説家の「私」が出会った辻音楽師の「私」がストーリーテラーとして順番に物語を引っ張っていきます。
中心になっている辻音楽師の「私」が語る物語は、早熟な天才が挫折を味わう過程を縦糸にして、横糸にナチス台頭直前のヨーロッパの閉鎖的な雰囲気が織り交ぜられています。これが実にいい感じです。僕自身は、この時代のヨーロッパ・クラシック界の状況に詳しくないのですが、それでも、思わずなるほどと納得させられるだけの説得力があります。
確かにメインになっている挫折のテーマ自体は、これまで多くの小説で扱われたものです。天賦の才能を持った人物が、伝統的な教育制度によって枠にはめられること。頼みにしていた友人の裏切り。こうした筋立ては、ありがちといえばありがちです。
ところが、こんなありがちなテーマですっかり気を許していたラスト、思わぬどんでん返しが待ち受けています。それまで「よくある話だよね〜」と思っていた光景が、見事なまでに全く違う情景に変質してしまいます。
種明かしになってしまうので、これ以上は書きませんが、最後の最後でもう一度最初から読み直して見たくなること請け合いです。
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