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文体練習

著者レーモン・クノー
タイトル 文体練習
出版社朝日出版社 出版年1996年 価格3598円
評価★★★★★
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やられた!

 本屋さんで見つけたときの最初の感想です。

 本書は、日常のなんでもないちょっとした状況を様々な文体で描く、ただその一点だけで1冊が構成されています。

 元となっている文章は下記のものです。

 S系統のバスのなか、混雑する時間。ソフト帽をかぶった二十六歳ぐらいの男、帽子はリボンの代わりに編んだ紐を巻いている。首は引き延ばされたようにひょろ長い。客が乗り降りする。その男は隣に立っている乗客に腹を立てる。誰かが横を通るたびに乱暴に押してくる、と言って咎める。辛辣な声を出そうとしているが、めそめそした口調。席があいたのを見て、あわてて座りに行く。
 二時間後、サン=ラザール駅前のローマ広場で、その男をまた見かける。連れの男が彼に、「きものコートには、もうひとつボタンを付けたほうがいいな」と言っている。ボタンを付けるべき場所(襟のあいた部分)を教え、その理由を説明する。

 一読してお分かりの通り、そこには小説的な意味での劇的な事件はなにもありません。奇妙な格好をした人物が、混み合ったバスの中で隣の乗客に文句を言う。その数時間後に偶然、同じ人物を見かける。それだけのことです。たったそれだけのことを手を変え品を買え、約100通りの文体で描いているのが本書です。

 衒学的なお遊びに過ぎないと思われる人もいるかもしれませんが、僕自身、「文体が内容に与える影響に関する考察」というお遊びをしていることもあって、この種のパスティーシュは大好きです。と言うことで、この『文体練習』も大好きな1冊になっています。


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とみくら まさや (vzx01036@nifty.com) $ Date : 2007.01.23 $