|Home / 読後感想 | |
著者 | ヴィクトル・ペレーヴィン | ||||
---|---|---|---|---|---|
タイトル | 恐怖の兜 |
||||
出版社 | 角川書店 | 出版年 | 2006年 | 価格 | 2000円 |
評価 | ★★★★★ |
ロシアの文学と言えば、重厚なイメージを持っていたのですが、こんな軽妙洒脱な作品を書く作家もいるんですね。という新鮮な驚きが読後最初の感想。
本書は、全編チャット形式で進んでいきます。
物語は、登場人物全員が、気がついたら知らない部屋に一人で置き去りにされているところから始まります。
部屋の中には、生活に最低限必要なものがある他はモニターとキーボードがあるだけ。他の登場人物との連絡手段は、モニターを通じたチャットのみ。しかもチャットの中では個人を特定できそうな情報は全て伏せ字(アスタリスク)にされてしまいます。誰がチャットで発言しているかは、ハンドル名で区別されるのですが、それぞれにつけられたハンドル名が意味があるのか、ないのか判然としません。登場人物のハンドル名はこんな感じです。
Monstradamus
IsoldE
Nutscracker
Organizum(^o^)
Theseus
Ariadone
UGLI666
Romeo-y-Cohiba
UGLI666
Sartist
気がつかれた方もおられるかもしれませんが、ハンドル名の頭文字を読むと……。
ともあれ、このメンバーがチャットだけで今いる場所の特定とそこからの脱出方法を検討していきます。
しかし、当然のことながら問題は簡単には解決しません。
第1に、今チャットを行っているメンバーの中に監視役が混じっている危険性があります。誰と話しているか特定できない以上、ひょっとすると自分以外の全ての人物が監視役かもしれません。
第2に、現実と仮想の区別がついているのかという問題があります。視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚といった五感は全て電気信号の伝達によって生じるものだと解明された現代において、逆に言えば特定の電気信号を適切に脳に送ることができれば、電気信号だけであたかも現実のように感じさせることができることを意味します。そのような世界において、何が現実で、何が仮想かを区別することは非常に難しくなります。
この二重のトリックによって、登場人物達は、各発言者は正直に話をしているのか、正直に話をしているとしても、それが本当に起きている現実かどうか判断できなくなってしまいます。
くらくらするようなこの状況の中で、はたして登場人物達は無事にこの世界から脱出することができるのでしょうか。結末は本書を読んでいただければと思います。
|Home / 読後感想 | |