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著者 | ジョルジュ・ペレック | ||||
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タイトル | 美術愛好家の陳列室 |
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出版社 | 水声社 | 出版年 | 2006年 | 価格 | 1500円 |
評価 | ★★★★★ |
やられた!
その一言に尽きます。
ペレックの作品は、『考える/分類する』、『W あるいは子供の頃の思い出』に続いて3冊目。どれも刺激的な作品なのですが、中でも本書は僕の好みに一番ぴったり当てはまっています。本書は「美術愛好家の陳列室」と題された1枚の絵画を紹介しています。
この「美術愛好家の陳列室」という絵画は、ある蒐集家が自身の絵画コレクションを前にしたところを描かれた肖像画です。まずこれが最初のトリックになっています。
蒐集家が集めた絵の前にいる。つまり、「美術愛好家の陳列室」には、肖像画の人物が集めた「他の絵画」も描きこまれることになります。
さらに、「美術愛好家の陳列室」の中には、「美術愛好家の陳列室」自身も描きこまれています。これが第2のトリックです。
絵の中に自身の絵が描かれている。つまり、合わせ鏡を想像していただければと思うのですが、どんどん小さくなっていく絵の中に同じ絵が次々と再現されていくことになります。
そして、第3のトリック。第1と第2のトリックによって古今東西の名画が縮小されつつ連鎖的に再現される中で、作者はそれぞれの縮尺の段階でちょっとした変更を加えています。最初のスケールの中に描かれている絵画はオリジナルそのものなのに、次のスケールでは、登場人物が肖像画に描かれている人物の息子に変わっていたりなど、それぞれのスケールに細かな差異があるわけです。
このようなトリック一杯の絵画や絵画の中に描かれている作品、絵画の持ち主、作者についての紹介文や評論をまとめたのが、本書となっています。
僕自身はまずこの絵に夢中になってしまっています。実際、自分の目で見てみたい。そんな気分です。
その上で。
これは完全にネタばらしになってしまいますが、「美術愛好家の陳列室」という絵画はこの世に存在していません。
つまり、本書『美術愛好家の陳列室』は、架空の絵画について紹介された架空の文章を紹介するという、クラクラしてしまうような構成になっています。
架空の存在について論じる点では、S.レムの『虚数』やボルヘスの『伝奇集』が真っ先に思い浮かびますが、レムやボルヘスが架空の書物を題材にしているのに対して、本書では絵画を出発点にすることで、クラクラ感がよりいっそう増しています。
メタ文学好きな人には絶対にお勧めです。メタ文学? という方でも、充分楽しめる作品です。本当に面白い!
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