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著者 | マークース・ズーサック | ||||
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タイトル | 本泥棒 |
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出版社 | 早川書房 | 出版年 | 2007年 | 価格 | 2200円 |
評価 | ★★★★★ |
現代版『アンネの日記』と『スローターハウス5』の帯に間違いなかった!
と言うのが、読書中の感想です。
『アンネの日記』についてはともかくとして、『スローターハウス5』と言われれば、ヴォネガット好きの僕としては、とにもかくにも読まねばなるまいと変な義務感から購入してみたのですが、本当にうまく書かれた作品です。
大まかなストーリーとしては、第二次世界大戦次のドイツを舞台に、共産主義の父親(作品中には登場せず)が逮捕されたことにより、里子に出される幼い姉弟。しかし、引き取り先の家に行く途中で弟は亡くなってしまいます。その弟の葬儀の際に、少女は1冊の本を拾います。これが彼女が「最初に盗んだ」本です。
これを皮切りに、少女は様々な本と巡り会います。焚書を免れた本、養父からプレゼントされた本、かくまわれたユダヤ人が書いた本……。こうした本と彼女との関わり合いを通じて戦時下ドイツの一般的な市民生活を丁寧に描いています。
テーマそのものは、戦争が市民生活に与える影響、ユダヤ人虐殺など重いものですが、それをどこかとぼけた感じにしているのが、語り手である「死に神」の存在です。確かにヴォネガットの作品に登場してもおかしくないような、どこか諦観めいた、それでいて人間への興味を忘れていない、独特の視線で物語を進行させていきます。
本書の特徴になっているのが、各章のタイトルそれぞれが、主人公の少女が「盗んだ本」の書名になっていることです。その上で、小説内小説として『本泥棒』の中で盗まれた本の内容も記されており。この二重構造が、違和感なく成立しています。
繰り返しますが、決して楽しくウキウキするような内容ではないのですが、語り手である死に神と、小説内小説の存在がこの作品を、どこかとぼけたような雰囲気にしています。
アンネの日記の生々しさが苦手な人でも、この作品なら楽しめるのではないでしょうか。
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