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著者 | カレル・チャペック | ||||
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タイトル | カレル・チャペックの警告 |
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出版社 | 青土社 | 出版年 | 2007年 | 価格 | 1400円 |
評価 | ★★★ |
考えてみれば、チャペックが生きた時代は、個人よりも全体を大切にする時代でした。言い換えれば、多様性よりも統一性に価値を見いだした時代です。人にとって、どちらがいいことなのかは、僕には分かりません。ただ、どちらが僕にとって好きかと言えば、僕はチャペックのように多様な世界の方を好みます。
チャペックが書いたエッセーの多くは、世界の多様さ、人間の愚かさにすら優しい目を向ける人間賛歌にあふれています。チャペックが生きた1930年代ヨーロッパの情勢の中で、よくもここまで隣人に対する優しさを持ち得たものだと感心させられます。
しかし、本書は、そんなチャペックのエッセーの中では、特別な1冊です。本書に収められたエッセーの数々は、世情に対する憂い、危機感、いらだち、そうした感情が吐露されています。無論、チャペックらしいユーモアも、そこかしこにちりばめられているのですが、本書の中では、薄い表皮でしかなく、その下にある感情が透けて見えます。
ナチズム、共産主義、思想の正しさについてはともかく、排他的な性格を持つがゆえに強力な組織力を有するこれらの思想集団を前にしたとき、チャペックのようなリベラルで開放的な考え方は、あまりにも弱すぎるように見えます。どのような価値観も認めるという立場にあっては、自分自身に攻撃を仕掛けてくる価値観をすら(論理的には)認めざるを得ず、自身の思想に忠実であろうとすればするほど、自分で自分の墓穴を掘っていくことになりがちです。チャペックのいらだちもその辺りにあるように僕には感じられます。
本書でチャペックが出している警告の多くが、現在の日本でも的を射ているだけに、チャペック側の人達が採用する思想的な戦術方法について歯がゆい感じがします。何かいい方法がないものですかねぇ。
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