2月の生き方


日記の目次

02.01 : 読み上げる人
02.08 : 元気者集団
02.12 : 東京都庭園美術館
02.19 : 腹話術士
02.25 : 東京、関西、そしてアメリカへ


読み上げる人

2001.02.01

 某学校の卒業制作発表会で学生と間違えられた冨倉です。もうすぐ30歳だというのに、それはいかんでしょ。今後はもう少し年相応に見られるような格好をしようと思います。でも、スーツ着てたんだけどねぇ〜。

 ともあれ。

 僕はかなり悪質な活字中毒で、列車の中で読むものがなくなると、酸欠状態の金魚のように、上を見上げて、車内広告の文字を読んでいたりします。

 そう言うわけで、帰りの京浜東北線の車内でその人物を発見したとき、正直に言えば、若干の同志愛を感じたのは事実です。

 が、しかし。

声を出して車内広告を読むのはいかがなものでしょうか?

 百歩譲っても、

やっぱりアサヒ芸能のチラシを読み上げるのは、どうかと思います。

 「巨乳女性の愛し方」とか、「私を抱いて歓喜した有名人」とか、「キューティー鈴木のヌード」と、なんのてらいもなく読み上げられると、僕の方がちょっと恥ずかしかったりします。


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元気者集団

2001.02.08

 僕は人一倍寒がりなので、あまり大きなことを言えた口ではないのですが、それでもやはりこの寒い中、薄着で歩いている人を見ると、

「まじっすか!?」

という気持ちになります。

 実際、ここ数日東京は非常に寒く、びしっと決めたスーツ姿のサラリーマンやハーフコートの前ボタンを開けて、中に薄いセーターを着込んでいるだけのOLの方々を横目に見つつ、僕なんか背広の下にトレーナーを着て、なおかつオーバーコートにマフラーという完全武装状態でも、寒いよ〜とガタガタ震えながら駅のホームで列車を待っています。

 そんな中、自称北区最大の赤羽の本屋に行ったところ、僕とほぼ同じくらいの年齢の男性が、半袖のTシャツ1枚という格好で歩いていました。見ているこっちの方が寒いです。季節感つーのがあるのだろうに。と一人で怒っていたところ、角からさらに一人の半袖男性が現れました。どうやら、待ち合わせをしていたようです。

類は友を呼ぶ

 と心の中で悪態をついていたところ、さらに半袖の男性が、ぞろぞろと出てきて、気がついたら、

半袖男性大集合!

状態になっていました。

寒くないのか!?

というより、

この人達の感覚器官はどうなっているのか!

 季節感は大切にした方がいいんじゃないでしょうか。余計なお世話?

それにしても、あれは一体何の集まりだったのだろう?


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東京都庭園美術館

2001.02.12

目黒で遊ぼう!

と僕が切り出すと、知人は、「目黒のどこに行くのか?」と聞き返してきました。

 目黒と言えばいわずとしれた

目黒寄生虫館!

と胸を張って答えると、知人はしばし絶句した後、

「地獄に堕ちろ」

と冷ややかに言いました。やっぱダメっすか?

 知人の機嫌を損なうと恐いので、おとなしく東京都庭園美術館で開かれている「ロシア・アヴァンギャルド展」に行ってきました。

 ロシアのアヴァンギャルドは、レーニン時代のロシアで展開された芸術運動で、いわゆる実践芸術と言われるものです。構図を重視し、モンタージュ的な手法を取り入れる一方で、デザイン化された文字を多用するというのが、特徴となっています。最大のポイントは、これまで観賞用だった芸術を、大衆(いい意味で)の生活に密着するように展開された点です。その後、スターリン時代に入り、政治の干渉を受けてロシアでは次第に低調になっていくものの、手法そのものは、現在でもポスターの基本となっています。

 「前衛」という言葉が常に時代の経過を経て陳腐化する運命にあるわけで、確かに今となっては古いという印象を免れませんが、それでも当時としてはずいぶん大胆な試みだったのであろうことは僕でも分かります。

 ともあれ、個人的に興味深かったのは、当時のロシア(ソ連邦時代)では、ドイツはもとより、アメリカの映画も結構上映されていたんですね。これは意外でした。バスター・キートンの映画が上映されていたのは、ちょっとばかり感激です。チャップリンじゃないところが通ですな。やるなレーニン君。

 ところで、庭園美術館は、他の美術館とは異なり、元々人が実際に住んでいたところを美術館に仕立て上げたということもあって、日本の美術館では珍しく、建物自体を見るのも面白かったりします。自分があそこで暮らせと言われると、恐らく3日と持たないだろうとは思うものの、ロココ調の素敵な建物だと正直思います。

 ちなみに、知人の感想はと言うと、

「あんなに部屋の入り口が狭かったら、お相撲さん通られへんね」

というものでした。多分、その心配は杞憂だと思います。


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腹話術士

2001.02.19

 男の子なら誰でも(かどうかは、定かではないですけれど)一度は憧れるのが、腹話術士です。子供の頃、近くの公園にやってきた腹話術士にいたく感激した僕も、家に戻ってから妹の人形を取り上げ、腹話術の練習をしたわけです。もっとも僕の場合、根気のない性格なので、すぐに飽きてしまったのですけれど。

 ともあれ、先日、巣鴨でフランス人形を抱いた20代後半の男性が山手線の電車に乗り込んできました。

 彼は実に大事そうにフランス人形を左手に抱き、しばらく車内をきょろきょろしていたかと思うと、僕の斜め前の席に座りました。見たところ、フランス人形を抱えている以外は普通の格好です。少なくとも黒いオーバーコートにマフラーをしつつリュックサックを背負っている僕なんかよりも、茶色のハーフコートの前ボタンを開け、中に白いセーター姿の彼の方が、よほど年相応の格好です。しかし、彼の左手にはフランス人形。

 あのフランス人形は一体なんだろうと、あからさまな好奇心を持って彼を観察していたところ、すぐに次のことが分かりました。

  1. 件のフランス人形はカオリちゃんという名前である
  2. カオリちゃんは22歳の誕生日を迎えた
  3. 彼はカオリちゃんに誕生日プレゼントを買ってあげるつもりであるが、まだ何を買うか決めていない

 以上のことがなぜ分かったかというと、問題の青年は、車内で休む間もなくずーっとフランス人形のカオリちゃんに話しかけておられたんですね。記憶を元に再現するとこんな感じです。

「カオリちゃん、今日はどこに出かけましょうか。渋谷なんか面白そうだね。でも、人がたくさんいるから……。そうだ、高田馬場に行こう。あそこにおいしいラーメン屋さんがあるんだよ。知ってた? すごくおいしいんだ。それを食べに行こう。ほら、あっちに卒業式の帰りの女子大生がいるよ。カオリちゃんも、もうすぐ卒業式ですよね〜。楽しみですか。卒業旅行はどこに行ったの。そう言えばカオリちゃん、22歳のお誕生日おめでとう。プレゼントは何がいいですか? 洋服がいいかなぁ。ドレスなんかどう。それとも靴の方がいい? ペンダントも似合いそうだね。大塚に着いたよ。今日は休みだから、あんまり乗ってこないね。空いてて楽でいいよね〜。僕、人混みってあんまり好きじゃないんだ。それで、プレゼントだけど、何がいい? なんでも買ってあげるよ。古本屋でマンガを売ったから、お金あるんだ、僕。だから何でも買ってあげられるよ。もうすぐ、池袋だね。池袋でさぁ、この前、映画を観たよ。面白かったんだ。今度、一緒に見に行こうね。うわ、すごい人だ。嫌だよね。カオリちゃんも人混みは嫌い?」

 もしかしてニューウェイブな腹話術? でも、終始カオリちゃんは無言だったので、やっぱりちょっと違うような……。


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東京、関西、そしてアメリカへ

2001.02.25

 『ボガス・ウィッチ・プロジェクト』を観ました。

 東京と関西では笑いの質が違うと指摘されることがあります。関西出身、現在東京暮らしの僕には、今一つ違いが分からないのですけど、一般的には

東京の笑いは洗練されているが、関西の笑いはベタだ

と言われることが多いようです。

 関西の笑いに共通していると言われている「ベタ」を検証してみると、恐らく次の3点を含んでいるのではないかと考えます。

【予定調和的】
 例えば、島木の「ぱちぱちパンチ」や「ぽこぽこヘッド」、池野の猫、届かないパンチなど吉本新喜劇が得意とするいわゆるおきまりのギャグなどのように、「出るな、出るな」と思わせておいて、やっぱり「出たか〜」というパターンですね。

【繰り返しの多用】
 関西のギャグは、基本的には単発ではなく、何度も繰り返すことで、笑いをとるというパターン。よくダウンタウンの松本が浜田に「繰り返すなや!」と突っ込まれていますが、同じことを何度も繰り返すことによって笑いを増幅させるという手法です。

【駄洒落】
 そしてなんと言っても、駄洒落です。落語では地口と言われるのですが、駄洒落が分かりやすければ分かりやすいほど、関西では尊ばれるようです。

 他方、東京では上記を否定した上に笑いが成り立っています。「予定調和的」は「ワン・パターン」、「繰り返しの多用」は「クドイ」、そして「駄洒落」は「オヤジギャグ」として忌み嫌われています。むしろ東京では「ウィットに富んだ」ものが尊重されるように見受けられます。

 興味深いことに、東京の笑いで尊重される点を分析すると、関西で尊重される笑いのポイントとちょうど逆になっていることが分かります。すなわち、予定調和よりも「新奇性」、繰り返しよりも「一発ギャグ」、駄洒落よりも「考え落ち」というように。

 このどちらの笑いが上か下かということは、軽々しく判断できません。しかし、よりワールドワイドなのはどちらかと言えば、恐らく関西の笑いであると僕は断言します。

 『ボガス・ウィッチ・プロジェクト』というタイトルで、ピンと来た人もいるかもしれませんが、この映画は、あの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のパロディ集です。例えば、サンフランシスコの都市伝説を調べにいったり、ブレア・アンダーソンに脚本を渡しにいったりして道に迷うという、実にくだらないシチュエーションをドキュメンタリータッチで元ネタに忠実に描いています。

 一言で言えば、「くどい」としか言いようのないぐらい、元ネタの有名な場面(例の泣きながら謝罪する場面とか)を繰り返しているわけで、手法としては明らかに関西の笑いに通じるものがあります。

 勿論、「世界的に通用すること」と「笑いの質が高い」こととは全く別の問題ですが、しかし、ブロードウェイで成功する可能性が高いのは、関西芸人の方だと言えましょう。

 ちなみに、僕は「言い放しでフォローなし」を信条に、この東京日記をはじめとするコンテンツを作成しているのは、一部で有名だったりします。

 なお、一緒に観ていた知人の感想は

「だからさぁ、下品なのは嫌いだって言ってるでしょ」

ということで、この映画もいつもと同じく、女性にはお勧めできないかも。でも面白いっすよ。


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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 2001/02/01 $