6月の生き方


日記の目次

06.04 : クイルズ
06.10 : さっき泣いた子が
06.11 : 車内からの交信
06.18 : 歯磨き同盟
06.24 : 夏服


クイルズ

2001.06.04

 サド侯爵の半生を描いた『クイルズ』を観に行ってきました。R15に指定されていたのですが、うーん、どうなんでしょう。少々ませた中学生なら、見ても特に不自然なところを感じないかと思うのですけれど。実際、最後まで見てみて、なぜこの作品がR15なのか結局分からずじまいでした。確かに、侯爵の性器そのものが出てくる場面がありましたが、劣情(古い言い方ですけれど)をもよおすようなものではなく、きちんと性器を映し出す必要性がありましたし、ラスト近くの死姦(正確には、死姦を夢想する)場面も、特別にエッチな気分になるようなものではなかったですし……(僕がすれてるという説もありますけれど)。

 この映画は、サド侯爵をはじめ基本的には実在した人物を登場させていますが、内容そのものは完全にフィクションになっています。ハリウッド的なステレオタイプなのは、ちょっと頂けませんが、女優さんが美人だったので、僕としては及第点の映画でした。

 それにしても、サド侯爵の評価って難しいっすね。単なるモラルが欠如した人物とするには、あまりにもスケールが大きすぎますし、他方で、最近の評価に見られるような「人間の醜い部分を徹底的に見つめることによって人間性を描写した芸術家」というのも、なんとなくとってつけたような気がします。アンチが、コンプレックスの裏返しにすぎないような薄っぺらな感じと同じ違和感を、僕は感じます。案外、好色なヒヒ爺というのが正解なのかもしれません。

 ともあれ、この種のピカレスク文学は日本ではどの程度進んでいるんでしょうね。特に性描写を中心とした作品は、なかなか日本では根付かないで苦戦を強いられているようです。日本のこの分野は、井原西鶴からそれほど進歩していないんじゃないでしょうか。もちろん、多くの社会で性については秘め事という暗黙の了解があるもので、どんなに頑張ってもこの分野がメジャーになることはないのかもしれませんが、それを考慮しても、もう少し前面に出てきてもいいような気がします。

がんばれフランス文庫!


【クイルズ】【泣いた子】【交信】【歯磨き】【夏服
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さっき泣いた子が

2001.06.10

 昼下がりの喫茶店、なにが気にくわなかったのか、その赤ちゃんは店に入ってくる前から、火のついたような泣き声をあげていました。

 店内に入っても、赤ちゃんはいっこうに泣きやもうとしません。若い父親はおろおろしながら、赤ちゃんをあやしていますが、全く効果ありません。

 とは言うものの、店内には新米の父親と、その父親に抱かれた赤ちゃん、それに僕だけです。赤子泣く父の腕にも梅雨来たりなどと下手な俳句をボーっと浮かべながら、ことのなりゆきを見守ることにしました。

 腕の中で揺すられてもダメ、頬ずりされてもダメ、優しい声をかけられてもダメ、赤ちゃんは全く泣きやむ気配がありません。

 そこへ、ウェイトレスがやって来ました。彼女が赤ちゃんを抱き上げると、さっきまでの大泣きが嘘のように赤ちゃんは泣きやみました。

 彼はきっと大物になることでしょう。


クイルズ】【泣いた子】【交信】【歯磨き】【夏服
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車内からの交信

2001.06.11

 人見知りとは無縁ではないかと言われ続けて30年。とは言うものの、最近、世の中は物騒なわけでして、いくら僕でも相手を見てから声をかけるようになるわけです。

 実際、全然知らない人にいきなり刺されたらシャレになりません。それでなくても、典型的なB型人間。あっちこっちで言いたい放題、やりたい放題をくり返しているわけで、敵が多いわけですから、それに加えて見知らぬ人まで敵にすることはなかろうと、この歳になって悟ったわけです(今さら遅いという説もありますけれど)。

 が、しかし。

 休日、京浜東北線秋葉原駅から乗り込んだ20歳前半の男性から、今まさに僕は目が離せない状態になっています。

 白黒のTシャツにジーンズ地の短パン。肩から黒いカバンをたすきがけにしたその人物は、車内に乗り込むなり、京浜東北線の列車の数少ない窓を開け放ち、乗客の「なにをし出すのか」という視線を意に介さず、プロ仕様のトランシーバーを使って、どこかの誰かと交信しはじめました。

あからさまに怪しい!

 東京に出てきてから早くも4年。それでもこれだけの人にはめったにお目にかかれません。そもそも、このご時世でなにゆえにトランシーバー! もしかして「車内での携帯電話のご使用はご遠慮下さい」とアナウンスしているJRに対するレジスタンスなのか!

 その瞬間。まさに僕の疑問を見透かしたかのような絶妙のタイミングで、キューピー3分間クッキングの着メロが車内に鳴り響きました。取ったのは件の彼。

携帯も持ってるやん!

 車内で携帯も自由に使える彼が、なぜトランシーバー(しかもプロ仕様)。ますますもって、トランシーバーの謎は深まります。

 目を合わせるとまずいっすよ。あんまり見るな、という知人の助言など僕には全く届きません。誰と交信しているのか。何の情報を伝達しているのか。そもそも、なぜトランシーバー? うわー、知りたい〜。と好奇心を隠しきれません。もはや考えられることはその一点だけです。

声かけたい!

 あいにく僕の心の電波は、彼のトランシーバーに届くはずもなく、最後の交信を終えた彼は西日暮里で列車を降りました。やはり声をかけるべきだった。バッグにデカデカと張ってあったキティちゃんステッカーの由来も気になるところですし。


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歯磨き同盟

2001.06.18

 6月4日は虫歯の日でしたって、完全に時期外してますね。相変わらず暦とは無関係にちんたらと好き勝手書いている東京日記。梅雨ですね。

 ともあれ、昔からこの「虫歯の日」というのは、意味がよく分からず、一人で悶々と悩んでいたりします。

 例えば、今日は父の日ですが、日頃の父親に感謝して父を祝おうという趣旨であることは、さすがに親不孝者の僕でも分かります。また、「体育の日」であれば、東京オリンピックを記念してスポーツを祝う、「敬老の日」であれば老人を、「海の日」であれば海を、「みどりの日」は宮崎さんを祝う日だということになるわけです。

 そう考えると論理的にいえば、

「虫歯の日」は虫歯を祝うのか?

 と知人に真顔でたずねてみたところ、

「はいはい、虫歯でも何でも好きなもの一人で祝っててください」

とすげなく返されてしまいました。でも、実際、どうなんでしょ?

 閑話休題。

 僕は、特別に歯が丈夫というわけではないのですが、朝晩二回の歯磨きで、今のところ虫歯にもならず、最後に歯医者さんの厄介になったのは、もう10年も前になります。

 理想的に言えば、朝晩だけでなく、食事の後には欠かさず歯を磨いた方がいいのでしょうが、学校を卒業して社会人ともなると、昼の歯磨きってなかなかできません。と思っていたのですが、どうも最近はそうでもなさそうですね。マイ歯ブラシを持ってきて、職場でがしゅがしゅと歯を磨く人が多くなってるのだそうです。

 ところで、ついさっき、久しぶりにレストランで食事をしたのですが、そのトイレで、やはりマイ歯ブラシでガシガシと歯を磨いている男性(20代後半)を発見! さらに、その後ろで待っていた人物も、やはり自分の番が来るとカバンから歯ブラシを取り出して、ガシガシと歯を磨き始めました。

 別に悪いことをしているわけじゃないとは思うのですけれど、でもやはり違和感を感じてしまいます。

 そのことを知人に報告すると、

「歯ブラシくらい可愛いものよ。女性の中にはドライヤー持ち込む人もいるよ」

とのこと。それはすごいかも。


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夏服

2001.06.24

 「そりゃまぁ、あたしゃグラマーじゃないけどね〜」と知人がため息まじりに言いました。

 ここでうっかり、「そうっすね」と相づちを打つと、大変恐ろしいことになります。うかつな受け答えをしてはいけないと、僕の緊張レベルは一挙に緊急警戒態勢にまで跳ね上がりました。

 その日、すっかり手下に成り下がってしまった僕を引き連れ、知人は夏物の服を買いに行きました。適当に涼しげな服を買って帰ろうと考えていた彼女の目に一着の服が目にとまりました。薄い青色で、派手なロゴマークもなく、それでいて決して無愛想ではないその服を、彼女はすごく気に入りました。これこれ、こういうのを探してたんだよ、と彼女は青い服を手に取り、試着してみようと店員に声をかけました。

 愛想の良い店員は、知人が差し出した青い服を手に取ると、しばらく考え込み、次のように宣告しました。

「お客様は、ほっそりされてますから、こちらのほうがお似合いではないかと……」

 普段、やたらと強気な知人ではあるのですが、身体的弱点を指摘されると、一気にヘロヘロになります。店員のカウンター攻撃で完全にへこんだ知人は、

「あ、そう? そっちの方が似合う? そうかぁ、そっちの方が似合うか……」

と言いつつ、それでも青い服に未練の残る彼女は、

「こっちは似合わないかなぁ?」

と最後の抵抗を試みました。

 が、しかし、店員は可愛らしい笑みを浮かべて、

「えぇ。こちらの服は、もう少し

肉づきの良い方

がお買いになることが多いです」

 「肉付きの良いかた」ってあーた、結局、胸の大きい人ってことでしょ。まさにとどめの一撃。知人は、「うん、じゃあ、そっちを……」と店員の差し出す鮮やかなブルーの服を手に取り、がくっと肩を落として試着室に消えていきました。

 笑い出しそうになるのを懸命にこらえている僕に、お似合いですよねと無邪気に店員さんがたずねました。コメント求めないで。

 帰り道。

 これ以上ないくらい敗北感を漂わせながら知人は冒頭のセリフを言いました。

 根が正直者な僕はうまいお世辞が浮かばないわけで、「まーそのー」と即席の田中角栄の物まねを始めると、知人は、「少しは否定しろよな」光線を出しながら、僕をにらみつけました。

 まぁでも、プロから「似合う」とお墨付きをもらったんだから、それはそれでよろしいのではないでしょうか。フォローになってませんか?


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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 2001/06/04 $