わ の段


笑いだけ

 (わらいだけ)
 途端落
 出典:古典落語 (講談社)

 笑う門には福来たるなどと申しますが、にやけ顔はどうなんでしょうね。それはそれで困ったことと言いますか、不謹慎な感じがあって、ちょっと問題ありそうです。お葬式のような典型的な場面はもちろんのこと、普段でも真面目に仕事をしなければいけない時間帯で、ニヤニヤしていると、周囲に迷惑をかけるわけで……。ちなみに、にやけ顔というのは、僕のことなのですけれど。

 ともあれ。

 仏頂さんという方がおられました。名前の通り、生まれてこのかた笑ったことがない。ずーっと仏頂面という方でございます。困った奥さんが、何とか笑わせようと、笑いだけの粉を煎じた薬を仏頂さんに飲ませたところ、はじめくすくす、次第にゲラゲラ笑い出します。

 煎じ薬の量が多かったのか、それともこれでたがが外れたのか、仏頂さんは、以前とはうってかわって、始終笑い続けるようになりました。

 それ以来、仏頂さんのところには、どんどんお金が集まるようになり、ますます仏頂さんとしては、笑いが止まらず、さらにお金が集まるという好循環になります。

 ところが困ったのは、天界の星々。仏頂さんが笑い続けているものですから、自分たちのお金まで仏頂さんのところに行ってしまいます。そこで皆で相談して、またお金が戻ってくるよう、こちらも仏頂さんに負けないくらい笑おうと、キラキラと笑い出しました。

 そんな星々の笑いにつられて、仏頂さんの家からお金が出ていこうとするのを見て、仏頂さんは笑いながら、

「よせよせ、あれは空笑いだ」


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とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 2003/10/05 $