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1998年のゲーム産業の実態と課題


目次
   このページについて
 【1】はじめに
 【2】産業の特徴
 【3】産業の現状
 【4】産業の課題


【このページについて】

 このページは、1998年11月に社団法人 全国地方銀行協会発行の「営業店管理者 12月号」に掲載されたものを改題した上で、加筆・修正したものです。
 この原稿を作成するにあたって、全国地方銀行協会の増田氏には色々とお世話になりました(特に締め切り関係でヒヤヒヤさせてしまったことを、お詫びします)。また、原稿を書く上で貴重な意見を出してくれた K 君にも感謝します。職場の M 君には、資料関係のチェックをしてもらいました。そのほか、原稿を書く上で直接・間接を問わず、お手伝いいただいた方全てに感謝します。
 このページの内容について質問・苦情等ありましたら、冨倉雅也までメールを下さるようお願いします。


はじめに


 テレビゲームに代表されるコンピュータ・エンターテインメント・ソフトウェア産業(以下、「ゲームソフト産業」)は、1983年、任天堂の「ファミリー・コンピュータ」の登場以来、確実に成長を続けており、日本を代表する産業の1つにまで成長した。

 1998年のゲームソフト産業の現状を一言で言えば、「今まさに成功しつつある産業」ということができる。「成功しつつある産業」とは、「多くの可能性を秘めている産業である」ということを意味する。

 ゲームソフト産業の最大の特徴は、下記の2点ある。


産業の特徴


企業規模

 まず、企業規模については、資本金1億円未満の会社が、全体の 46.0% を占めており、従業員数でみても 100 人未満が 59.0% を占めている。また、正社員の平均年齢は 29 歳となっており、この業界が、まだまだ若い産業であることがうかがえる。他方で、96 年度の年間総売上高 10 億以上の企業は全体の 58.0% あり、高い利益率を示している。

数値については、社団法人コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会『'98 CESA ゲーム白書』より

流通システム

 次に、流通システムは、従来の特約卸経由の大量生産・一斉流通から、受注制の多頻度少量生産に移行しつつある。これまでは、プラットフォームメーカーが製造問屋の役割を果たしていたこと、媒体であったロムカートリッジの製造に時間がかかることなどから、最初の生産量を重視していたのに対し、CD-ROMに中心が移ってからは、追加生産にかかる時間が比較的短くなり、柔軟に対応できるようになった。また、このような流通システムをさらに進めて、コンビニエンスストアーの流通システムを利用するなど、自社流通を始めるソフトウェアメーカーも増えてきている。


産業の現状


市場の現状

 社団法人コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会が毎年まとめている『'98 CESAゲーム白書』 によれば、1997年のソフトウェアとハードウェアを合わせた総出荷額は 1兆480億6800万円となり、前年の 8519億9900万円より 23% 上回った。

 より詳細にみると、出荷額から推計した国内ソフトウェア市場規模は、10.2% 増の 5,832億5,900万円。国内ハードウェア市場規模は、7.2% 減の 1,749億800万円となった。これは、家庭用ゲーム機の保有率が 71.9% と対前年比で 2.3 ポイント上昇したことに伴うものである。この結果、ソフトウェアとハードウェアを合わせた国内総市場規模は、5.4% 増の 7,581億6,700万円となった。

 一方、海外出荷額は、ソフトウェアが 20.5% の 1,478億4,300万円。 ハードウェアが 66.2% 増の 3,686億7,900万円でともに大きな伸びを示した。

 国内外の出荷額を比較すると、ソフトウェアは国内依存度が高く、ハードウェアは海外依存度が高い。この傾向は前年と変わらないものの、ソフトウェア、ハードウェアともに海外出荷額の伸び率が国内を上回り、ゲームソフト産業が日本の輸出産業として着実に成長しつつあることをうかがわせる。


消費者動向

 次に、消費者動向については、家庭用ゲーム機を保有する家庭が前回調査より 2.3 ポイント増の 71.9% という結果になった。

 保有率を年齢別に見ると、7歳から 12歳までの小学生がいる家庭では、4.9ポイント増の 93.1%。13歳から15歳までの中学生がいる家庭では、2.7 ポイント増の 97.1%。16歳から18歳までの高校生がいる家庭では、3.7ポイント増の 90.7% となった。また、30代についても、保有率だけでなく、当人使用率も増加しており、この結果からも、ゲームが今や子供だけでなく、広い世代で受け入れられていることが分かる。

 家庭内の平均ソフトウェア本数では、全体で 5.5 本増の 32 本という結果になっっている。興味深いことに、当人専用ソフトウェアの平均保有数で、30代男性が、前回調査 9.0 から、21.3本、女性も全年齢で前回 6.9 から 11.2 本と増加を示しており、ここでもゲームが、年齢性別を超えて、広く浸透していることが分かる。

 また、ゲーム離れが懸念されていた小学生についても、1年生から 3年生までの 89.5% がゲームユーザーで、そのうち 90.9% が、1週間のうち 2日以上ゲームで遊び、4年生から 6年生の高学年でも、91.0% がゲームユーザーで、そのうち 80.2% が 1週間のうち 2日以上ゲームを楽しんでいるという結果が出ており、全体の 77.1% が、好きな遊びの第1にテレビゲームを挙げている。このようにゲームは、すでに生活の一部となっていると考えられる。


産業の課題


 現在、ゲームソフト産業が抱えている課題は、大きく分けて次の 3点が挙げられる。

  1. 法の整備
  2. 人材の育成
  3. 資金調達

法の整備

 ゲームソフト産業は、技術的な革新が非常に早いペースで進んでいる。そのため、法律が現実に必ずしも追いついていないという場面がある。

 具体的な問題として、現在、中古ソフトが社会的な問題として取り上げられている。CESA の調査では、1997 年の中古ソフトウェア総販売本数は 4,048万4000本、金額にして 2,325億円と、同年の出荷本数 1億157万本と比べて高い水準で中古ソフトが出回っているとしている。メディア開発・綜研が行った調査(財団法人 新映像産業推進センター『新映像産業白書 1998』 より)でも、1996年度の本数ベースで 27% も中古市場が占めているという結果が出ており、やはり、中古ソフトの存在が大きな機会損失になっていると言える。

 中古ソフトの問題は、ソフトウェアがどのような法的保護を受けるのかということが争われているのであり、これからの日本の産業がソフトウェアにシフトしつつある現在、一産業の問題ではなく、国家的な問題だと認識して、この問題の解決を図るべきであろう。


人材の育成

 前述した通り、ゲームソフト産業は、技術革新のペースが速く、なおかつソフトウェアの開発には高度な知識が必要とされる。また、単に技術面だけでなく、豊かなアイデアや想像力も求められる。このような人材を産業界としてどのように育成していくのかは、産業全体の問題として認識されている。これについては、現在、CESAを通じて、ハードウェアメーカー、ソフトウェアメーカー、教育機関の三者が協力して各種の活動を行っている。


資金調達

 前述した通り、ゲームソフト産業の特徴として、比較的小資本で高い売上を出すという点が挙げられる。言いかえれば、この産業では固定資本よりもむしろ、流動資本の方が重視されている。

 しかし、従来の金融制度では、こうした特徴が、逆にソフトウェア会社の資金調達の手段を狭めているという実態がある。特に現在のような金融状況では、業況が順調であっても、資金調達が無担保・信用の範囲でしか行えず、成長の妨げになっているという面が、残念ながらある。こうした点を受けて、ソフトウェアについてどのような資産評価方法が適当なのか、法的な整備も含めて、検討していく必要がある。


 以上のような課題を含みつつも、ゲームソフト産業は、基本的には順調な発展を続けている。特に、今後、コンピュータ・ネットワーク市場での展開、ワールドワイドな展開など、いくつもの成長要因を持っており、ゲームソフト産業は、まだまだ多くの新しい可能性を持っていると言える。


とみくら まさや(vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date: 1999/01/25 $