著者 | J.L.ボルヘス | ||||
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タイトル | ボルヘス「伝奇集」 | ||||
出版社 | 福武書店 | 出版年 | 1990年 | 価格 | 1200 |
評価 | ★★★★★ |
存在しない書物の序文を集めた作品としてレムの『虚数』がありますが、本書は、存在しない書物の「読書ノート」となっています。
手法としては似ているものの、『虚数』があくまでも序文として、言い換えれば、架空の書物の意義や価値を叙述することによって存在しない書物をあたかも現実の書物のように読者に提供しているのに対して、『伝奇集』では、まさに読書ノートに徹することによって、存在しない書物の全体像を浮かび上がらせています。
この両者の違いは、些細なことのように思えるかもしれませんが、前者が基本的には架空の書物の賞賛を基調としているのに対して、後者は場合によっては架空の書籍に対する批判もあえて行える可能性を常に内包していることです。これによって、『伝奇集』では、微妙な緊張感を常に維持しています。
また、『伝奇集』では、執拗なまでのシンメトリーで全体の構成を行っています。このシンメトリーの効果を楽しむには、読者は細心の注意を払って作品を読むよう常に意識しなければなりません。
短編小説を集めたものとはいえ、じっくりと腰を落ち着けて本を読みたいときにお勧めです。