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フライデーあるいは太平洋の冥界

著者M.トゥルニエ
タイトルフライデーあるいは太平洋の冥界
出版社岩波書店 出版年1982年 価格1800
評価★★★

【感想】

 物事というものは、案外、僕たちが思っている以上につながっているもので、本書ではタイトルからも分かるように、クッツェーの『敵あるいはフォー』と同じく、『ロビンソン・クルーソー』のパロディです。

 クッツェーの作品が、スーザン・バートンという闖入者の介入により、クルーソーの世界が再構築されるのに対して、トゥルニエは、より直接的にフライデーという異邦人の登場により、クルーソーの世界をいったんは破壊し、その上で新しい世界を創造しようとしています。

 デフォーのオリジナルでは、クルーソーが合理的な精神の象徴として描かれていることへの反発として、両作品とも、合理的精神の欺瞞性、虚構性を暴き立てます。そうした専制的なクルーソーの、言い換えれば非人間的な独善性に対置するものとして、フライデーの無知、怠惰を持ってきます。

 両作品において、フライデーの扱いは必ずしも同じというわけではないのですが、共通して言えるのは、フライデーを自由人として、それも怠惰な自由人として描かれています。  僕にとって興味深いのは、怠惰であることが自由であること、従って自然的な存在であるという着想です。こうした思想の背景には、カトリック教の原罪の思想があるように僕には感じます。

 無論、原罪思想の影響の有無を問わず、時として(特に現代人にとっては)勤勉であるよりかは怠惰であること、秩序よりは混沌を、そして博学であるよりは無知であることに強い魅力を感じます。そういう意味では、依然として現代的な意味を本書は持っていると言えるでしょう。


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とみくら まさや (vzx01036@nifty.ne.jp) $ Date : 2002.02.03 $