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著者 | パスカル・キニャール | ||||
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タイトル | アプロネニア・アウィティアの柘植の板 | ||||
出版社 | 青土社 | 出版年 | 2000年 | 価格 | 2400 |
評価 | ★★★★★ |
キニャールの本は『舌の先まで出かかった名前』に続いて、これが2冊目。読後の最初の感想。
面白すぎ!
いや、本当に面白いです。というか、うまいです。
本書には、表題作「アプロネニア・アウィティアの柘植の板」と「理性」の2作が収められています。どちらも古代ローマを舞台にしていて、前者は帝国が東西に分裂する時期、後者は帝政初期を時代背景にしています。
どちらの作品も一種のパロディというか偽書の形式を取っているのですが、特に前者の「アプロネニア」がうまいです。
ご存じのように、「アプロネニア」の背景になっている340年代、ローマ帝国は蛮族の侵入に首都ローマが焼かれ、内部では古来からのローマの神々がキリスト教によって完全に駆逐されるというあらゆる面で最後の局面を迎えていた時代です。そうした最終局面につきものの政治的、社会的混乱により指導層も民衆も大きな不安を抱えていました。
ところが、そんな時代にも関わらず、アプロネニア・アウィティアという女性が書いたとされる記録には一切そのような事件は登場せず、彼女が感銘した風景、あるいは好きな人の言葉、過去の思いで、はたまた買い物メモといった日々の備忘録だけが淡々と記されています。
これが実にうまいです。あたかも歴史的には埋もれてしまった一次資料と錯覚してしまうくらいよくできています。しかも、前述の通りこの時代はローマにとっては落日の混乱期にあたるわけで、アプロネニアのメモ書きと時代背景の解説のコントラストが、はっきりと浮かび上がっています。
今、かなり手放し状態なので、自分でも何を書いているのか分からなくなってきていますが、とにかくうまいです。ローマの歴史に興味のある人は勿論、源氏物語よりも枕草子が好きだという人も、一度だまされたと思って読んでみてください。損はしないはずです。
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