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著者 | リディア・デイヴィス | ||||
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タイトル | ほとんど記憶のない女![]() |
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出版社 | 白水社 | 出版年 | 2005年 | 価格 | 1900円 |
評価 | ★★★★★ |
短篇集というよりは断片集。そんな感じの1冊です。
本書は、ある意味で未完成作品を集めたような内容になっています。筒井康隆の『天狗の落とし文』に近いといえば分かってもらえるでしょうか。『天狗の落とし文』と同じく、リディア・デイヴィスという作家が最初に得た着想をそのまま一息に書き上げた、そんな印象を受けます。
本書を読んでいて感じたのは、まるで原石を見つけたときのような驚きでした。もっと磨けるのではないか。そんな印象を受けつつ、その一方で、これ以上磨くところは何もない。それどころか、磨いたり何か手を加えることによって、この原石の持つ力強さ、生々しさ、そうした魅力が失われてしまう。そのことに気づかされて、愕然としてしまったわけです。
『天狗の落とし文』の場合は、著者の筒井康隆自身が述べているように、あくまでも着想で、誰でも好き勝手に手を加えていい(もっとも本当に手を加えられるかどうかは別として)状態なのに対して、本書に収められている作品の数々は、原石であるにもかかわらず、これ以上、手を加えられないという点が大きく異なっています。
内容的には孤独や不条理を扱っている作品が多く、シリアスな出来になっているのですが、それにもかかわらず、読後に嫌な後味は残りませんでした。
岸本さんの翻訳がうまいことも相まって、まるで詩を読んでいるかのような雰囲気に浸れる1冊です。
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